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終章 映画館で映画を観る楽しさを

全11章に及ぶこのエッセイも、ひとまずここで筆をおくことにする。

個人的な話になるが、私・森田と塚口サンサン劇場との出会いは、2012年だった。
キネプレを立ち上げた数か月後に取材をしたのが最初だった。
それ以来、数多くのイベントや企画を取材したほか、戸村さんにインタビューしたり企画者を紹介したりイベントを提案したり、時には一緒にイベントをやったりした。

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そしてそれ以上に、戸村さんといろんな話をした。
「映画館で映画を観る楽しさを伝えたい」
そんな思いを知り、取り組んでいることをずっと追ってきた。
それをこの全11章、原稿用紙約210枚分・約85000字のエッセイに詰め込んだつもりだ。

タイトルは、大きく出ようと思って、「愛される映画館のつくりかた」とした。
もちろん塚口サンサン劇場以外にも、愛される映画館はたくさんある。
多くのファンに支えられている空間が全国にあるし、これからそうなろうとしている劇場もある。
それぞれの映画館に合うやり方が千差万別なのも、分かっているつもりである。

でもそんな多数の映画館の中でも、塚口サンサン劇場は私にとって、何かが違っていた。
多くのファンに愛されているのは分かっても、「なぜ愛されるのか」を知りたかった。
この全11章の駄文を書くのは、ある意味その違和感の正体を探る旅のようなものだった。

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「つくりかた」というタイトルに反して、ノウハウやHow toを掲げては来なかった。
ただただ、塚口サンサン劇場が歩んできた10年の軌跡を、どれが転換点だったか分析する視点を持ちながら自分なりに整理し、記し続けただけだ。
しかしノウハウは書いていなくても、戸村さんやその他スタッフたちが、節目節目で何に気づき、どう考え、挑んできたかを知ることで、読んだ人に少しでもフィードバックがあればと思っている。


もちろん書ききれなかったことはたくさんある。
人気のイベント上映も全部拾えていないし、スタッフの努力だってもっと紹介したかった。
だがひとまずは、この11つの項目のどれ1つとして、塚口サンサン劇場が今に至るまでに欠かせなかった要素だったと確信している。

愛される映画館を作りたい人、映画館でなくても愛される場所やイベントを生み出したい人に、少しでも参考になればうれしいし、塚口サンサン劇場を途中で知った人にも、改めて劇場の変遷に興味を持つきっかけになれば幸いである。

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連載をはじめる前も連載中も、戸村さんとたくさん話をしてきた。
「塚口サンサン劇場にはこういう要素がありますよね」
「こういうことを組み合わせてますよね」
と、いろいろ言葉を投げかけてみたこともあったし、まだまだ投げかけてみたい言葉がたくさんある。
「ずっとこう考え続けてきたんですか」
「あれって、こういう計画があったんですか」
とか。

だがたぶん戸村さんは、
「いつもその都度その都度、必死に考えてやって来ただけです」
と頭をかいて笑うだろう。
「ファンの方がいてこその映画館です。いつもファンの方に助けられています」
と照れくさそうに言うだろう。
そして、
「だからこれからどうするかもまだまだ未知数ですし、ずっと考え続けていきます」
とうそぶくだろう。

でもそれでいいのだと思っている。
その柔軟性が塚口サンサン劇場の魅力の一つだし、「低いインテリジェンス」「軽いノリ」と自称するフットワークの軽さが、運命をえいやと切り開いてきたことは、この全11章を読んでいただければ少しは分かっていただけるはずだ。

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最後に。
塚口サンサン劇場のスタッフの皆様。
いろんなお話を聞かせてくれてありがとうございました。
塚口サンサン劇場のファンの皆様。
映画館を愛する思いを教えていただきました、ありがとうございました。
そしてもちろん戸村さん。
この連載の執筆にご快諾いただき、いろんな取材でもお世話になりました。ありがとうございました。

コロナ禍を越えて、塚口サンサン劇場が、「映画館で映画を観る楽しさ」をどう伝え続けていくチャレンジをするのか。
それをみつめていこうと思います。

これからの塚口サンサン劇場に、幸多からんことを。

執筆:森田和幸(キネプレ)
撮影:キネプレ一同
写真協力:関西キネマ倶楽部

最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ、続くんじゃ。