塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

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第11章 スタッフ奮闘編「俺の責務を全うする!」4/4

そしてもちろん、塚口サンサン劇場で活躍するスタッフは、まだまだいる。

東(あずま)さん・加藤さんの2人は、「手芸部」として活躍中。(京都でグループ展をしたこともある)
サンサン劇場の劇場内装飾はダンボールに限らず、さまざまな形で展開されるが、中でもフェルトや布を使ったものがよくお目見えする。
中でも人気なのは、「秋山殿」と呼ばれる人形の服飾だ。
サンサン劇場に欠かすことができなくなったアニメ『ガルパン』に登場する秋山優花里というキャラクターで、お客さんからいただいた人形を活用。作中で「様々な高校に潜入する」ことにあわせて、「様々な上映作に潜入する」という企画を定期的に実施している。
その都度、潜入先の映画に合わせたコスチュームを手芸部が仕立て上げる。ガルパンを知らないファンからも愛されており、秋山殿の写真もよくSNSをにぎわせている。

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ダンサー経験のあるスタッフもいる。
第6章「前説芸人編」で取り上げた『プロメア』マサラ上映の時には、戸村さんより先行して会場に入り、楽曲「Inferno」に合わせてダンスを披露。会場を大いに盛り上げた。
戸村さんの「そういえば彼、ダンスやってたな。踊ってもらおう!」そんな思い付きから実現したが、トリガーの大塚社長らも見ている大舞台でノリノリのダンスをやり切った彼の度胸に拍手を送りたい。

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昔は、「ヒーロー」がいたこともあった。
特技が裁縫の男性で、ヒーローが好きすぎて自分でヒーローコスチュームをつくってしまったというスタッフだ。(現在はもう就職して劇場にはいない)
2014年に「サンサンアクションクラブ入団式」という、アクションヒーローのスーツアクターを主役にした企画特集を実施した時、「ヒーロースーツを着て接客すれば面白いかも」となり、サンサン劇場にヒーローが見参することになった。
ちなみに当時取材に伺った時に、本人にインタビューしようとしたら戸村さんに「しゃべらない設定なので……」と代わりに話をしてもらったことを覚えている。

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正直ここに書ききれないのが申し訳ないぐらいだが、ほかにも個性豊かなスタッフがたくさんいる。
みんな映画が好きで、塚口サンサン劇場が好きで、塚口サンサン劇場に集うお客さんたちが好きなのだ。
そしてお客さんたちに喜んでもらうために、自分の個性をどう活かせばいいかを考えてきたし、戸村さんたちもそれを活かす方へ一緒になって歩んできた。
戸村さんは、若いスタッフたちの意見もちゃんと聞くようにしているという。
「こちらのやり方を押し付けない・アイディアを聞く、ということを心がけるようにしてます。若い人たちの感覚の方が、絶対いいに決まってますから」

音響を調整する腕のいい映写技師がいる。
ダンボールでお客さんをにぎわせるスタッフがいる。
映像とデザインで盛り上げるスタッフがいる。
手芸でお客さんの目を楽しませるスタッフがいる。
ツイッターもブログもアプリも、中の人たちが個性を爆発させて運営している。
前説は戸村さんとスタッフが一緒になって作り上げる。
イベントの時にはコスプレをし、総出でお祭り感を演出する。

「ずっと文化祭をやっているんです」
戸村さんはそう話す。
細部にこだわり、スタッフたちがまず楽しみながら、お客さんと一体となって作り上げていく文化祭。

お客さんのマナーもとても良い。応援上映で荒れたとか、ゴミ掃除ができていなかったとか、そんな話はほぼ聞かない。マサラ上映は、最後にみんなで片づけをする。
だってみんな、この映画館が好きだから。

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「愛される映画館」
塚口サンサン劇場は、この10年間でそう呼ばれるようになった。
街の映画館でありつづけながら、さまざまな映画をかけ、多彩なイベントを行い、ユニークな企画を連発し、日本中から人がわざわざ訪れる映画館になった。
2010年頃にはどん底だった集客を上向きにし、コロナ禍になるまで毎年売り上げを伸ばし続けた。

それはもちろん一朝一夕にできたわけではない。
一瞬で映画館を生まれ変わらせ、経営を上向かせる「魔法」のようなものは、どこにもありはしなかった。

この10年間は、ひとつひとついろんなことを考え悩みながら、汗水たらして取り組んできた結果だ。
一歩一歩、スタッフたちが
「映画館で遊んでほしい」
「映画館で楽しい時間を過ごしてほしい」
「映画館で映画を観る楽しみを伝えたい」
という思いで歩んできた、その10年間の軌跡だった。
だからこそ、奇跡が生まれた。
知恵と努力と情熱と、ファンたちの応援によって、日本中でも類を見ない「愛される映画館」が、ここ兵庫・尼崎の地に誕生した。

最後にもう一度、DJパーティイベントでの戸村さんの言葉をここに記しておく。
「映画館で映画を観る楽しみと、『映画館って楽しい場所なんだ』ということを伝えたいです。これからもこんな感じで、アホなことも含めてやっていきますが、ぜひどうぞ引き続きよろしくお願いします!」

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