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第10章 おもてなし編「空に穴を開けよう」2/4

塚口サンサン劇場のお客さんとのコミュニケーションは、来館前から始まっている。
その代表格は、ツイッターブログ、そしてアプリだ。

まずツイッター。これは基本的には戸村さんが運用しており、深夜になっても稼働していることが多い。

ツイッターを始めたのは、2011年8月。『電人ザボーガー』上映の3か月前だ。
リアルタイムで上映情報を発信することができるし、セカンド上映を多数組んでいくことで、ギリギリで番組が決まることもよくあるサンサン劇場にとっては、ありがたいツールだった。

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最初は、映画情報やイベントのお知らせを伝えるだけだったツイッターだが、だんだんと2つの活用を見出し始めた。
1つは、「段階的な情報拡散」
1つは、「お客さんとのコミュニケーション」だ。

「段階的な情報拡散」とは、要するに「少しずつ情報を発信していく」ということである。
「今度、ある面白いことを発表します。お楽しみに」的なことを先出しし、そのあとに少しだけ情報を出す。そして満を持して、決定情報を発表する。
第9章の番組編成の項目でも述べたが、こうして徐々に期待を高めていくことで、大きな盛り上がりが生まれることがたくさんあった。

例えば2015年8月の、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のイベント上映の時は、7月22日に、まず「フツフツと煮えたぎる【MAD】を腹の底に溜めておくように」とツイートした。
そして8月6日に、
「関西のウォーーーーボーーーーーイズ!!!明日8月7日の夜にイモータン・ジョー様よりMADなお言葉が発せられるぞーーーーー!!!!!聞き逃すのでないぞーーーーーーー!!!!!」
と投稿。

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「絶対『マッドマックス』のイベントがあるんだ」とファンの期待を高めた後で、翌8月7日
「カモン!ウォーボーイズ!8月22日の20:15より『「マッドマックス 怒りのデスロード」Screaming“MAD”上映』開催決定!立て!叫べ!クラッカーを打ち鳴らせ!“V8!V8!V8!”の声を塚口の空にとどろかせよ!」
とイベントのお知らせを流した。
また、それぞれのツイートに反応するファンにも丁寧に引用リツイートで対話をつづけ、当日の開催まで盛り上がりを作った。

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塚口サンサン劇場のこうした段階的なツイートは、お客さんの想像力を刺激することに一役買っている。
「ひょっとしてあの作品が……?」「もしかするとあれをかけてくれるかも」
と想像しながら期待を高めていただくことが、映画館に訪れる前からの楽しみを作っているのだ。

そしてもう1つの「お客さんとのコミュニケーション」も活発だ。
これも第9章で述べたが、お客さんたちの「こんな作品を上映してほしい」という要望の投稿があれば、「検討リスト入ってます」などの返事を返す。ほかにもサンサン劇場を訪れた感想のツイートがあれば、検索して感謝を投稿する。
自分の要望の作品が検討リストに入り、後日上映されることになれば、やはりそれはうれしいものだ。
そこで生まれるコミュニケーションは、ファンにとっても映画館を訪れる前から親しみを覚えることにつながるし、引用リツイートで会話をすることで他のフォロワーにも可視化され、より多くの人との「イベント感」をツイッター上に作ることができる。

また『パシフィック・リム』の激闘上映会での「今日は勝てる!」発言(第4章参照)と同じく、お客さんたちは自分で楽しみを見つけていくことが増えてきた。(クリエイティブな消費、と呼べると思う)
ツイッターでもそれは同じで、「このイベントではこんなコスプレで行こうかな」だったり「こんな企画も面白いですね」だったり、そういったお客さん発の発想が自在に飛び交うのが恒例の風景になっている。
それが戸村さんをはじめ、サンサン劇場のスタッフにも刺激を与えているし、塚口の流儀の1つとして「その予想をさらに上回る楽しさを提供しよう」という気概があることが、良い相乗効果を生んでいる。

あとは「ツッコミどころ」があるのも、サンサン劇場のツイッターの特徴の一つだ。
「またサンサンっぽいこと始めたぞ」「これが塚口の日常」「夜遅いんで早く寝てください」
など、フォロワーが一言付け加えたくなるような投稿が多いのだ。
それが、単なるリツイートではなくて引用リツイートになり、より多くの人の目に留まり盛り上がる、という流れを生み出している。
ここで必要になるのは、前項でも書いた「ユーモア」「笑い」だ。
単なる情報発信にとどまることなく、映画館の個性が光る投稿をすることが、その独自性につながっていると言える。

「映画館が、映画を観る前からみんなで遊ぶ空間になってほしい」
きっとそう戸村さんは思いながら、ツイッターを毎日更新し続けているのだろう。