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2022年01月06日(木)
第10章 おもてなし編「空に穴を開けよう」1/4


「映画鑑賞を、日常生活の中の行動パターンの1つにしてほしい」
戸村さんはある時、そう話していた。
「毎週この曜日に買い物に行って、毎月かならず歯医者に行ってというような感じ」だという。

以前より「エプロンでも来られる映画館」と掲げていたのは、「街の映画館」として活用してほしい、という思いに加えて、そのような「日常使いをしてほしい」という思いからでもある。

一方で、「ザボーガー後」を皮切りに、近隣だけでなく全国各地から塚口を訪れる人が増えてきた。
「そうした人たちにアピールできる設備はあるのか」
その答えの一つが、塚口らしいユニークなものだった。

「うちはトイレだ!」

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第7章の特別音響編でも記したとおり、他の映画館はドルビー、IMAX、4DXなど、「自宅では味わえない特別感」を設備投資に見出した。
だがサンサン劇場ではそこまで予算はかけられなかった。

ただ、大規模なリニューアル工事は行った。
時期は、2009年12月
余談だが、第1章で述べた西宮北口駅前の「TOHOシネマズ 西宮OS」のオープンが2008年11月だったことを考えると、その影響もうかがえる。
『電人ザボーガー』の上映は2011年11月だが、その前からサンサン劇場では番組編成に腐心するなど、生き残りをかけた取り組みを始めていた。
このリニューアル、ひいてはトイレの改装もその一環だった。

トイレのリニューアルイメージは「ホテルのような空間」
その通り、映画館の中でも有数のきれいなトイレが完成した。

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このトイレのくだりについては、2020年2月に、音響監督の岩浪美和さんと戸村さんとで開催されたトークイベント「映画の音の作り方/愛される映画館の作り方」でも言及されていた。

岩浪さんは
「初めて行く女性の方も『トイレがきれいなら安心だな』と思うわけだよね」と言う。
戸村さんは答えた。
「お金はかけられないので、トイレをあえて売りにしようと思いました。笑いですよね。ある意味究極のマンパワーです」
「ドルビーとかは導入できない。じゃううちは何か。『笑い』だ!と(笑)」
「ある意味目立ってなんぼだと思ってますんで(笑)」

ホスピタリティ笑い
これは、トイレ以外にも塚口サンサン劇場のあらゆるところに共通する「おもてなし」の精神の根幹だ。
だからサンサン劇場では、手厚い接客だけでなく、ユーモアが随所に盛り込まれているのだ。

トイレはその後、多くの来館客が絶賛している。
SNSでも定期的にその話題が出るし、それをきっかけにサンサン劇場を知った人もいる。
もちろんその状態を維持するため、スタッフは定期的な清掃を欠かさない。

ちなみに余談だが、このトイレでも「笑い」を呼んだ出来事があった。

スタッフのよら天子(てんこ)さんがブログで書いた「トイレットペーパーに関する悲しいお知らせ」という投稿が2014年4月28日にアップされ、話題を呼んだのだ。

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よら天子さんによる当時のブログ

内容は、「サンサン劇場のトイレットペーパーが“柔らかソフトタッチのもの”から“お肌に厳しめのもの”に変わったことをお詫びする」というものだ。
理由は単に、いつもの仕入れ先の在庫が切れただけだったが、ユーモアを交えつつ取り上げたことが、劇場ファンを喜ばせた。

塚口サンサン劇場のホームページには「日本一トイレのきれいな映画館を目指しております」という文字が掲載されている。
なんだったら、各スクリーンよりトイレの写真が多いほどだ。
そしていまでも、ある意味そのトイレを目的に訪れる観客もいる。

次項からは、他のホスピタリティや、お客さんとのコミュニケーションについても詳細に述べていこう。




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