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第6章 前説芸人編「燃えていいのは魂だけだ!」1/4

塚口サンサン劇場では、イベント上映として、マサラや応援上映が定番化した、というのは前章までに述べた。
そのイベントの一環として、2015年から新たに盛り込まれ始めたものがある。
それが、「前説」「前説芸」「前説パフォーマンス」と呼ばれているものだ。

基本的には、戸村さんが「出演」する。
いままで、企画したり番組を組んだり当日の接客したり、ツイッターを運営したり、というのをやって来た戸村さんが、だんだんお客さんの前に出始めた。

といっても、最初から「パフォーマンスをやるぞ」という意気込みで始めたわけではない。
前述の「マサラ上映」の注意事項案内が最初だった。
紙吹雪やクラッカーを使うため、通常の映画のマナー案内では不十分だったのだ。
「紙吹雪は迷惑にならないように、クラッカーも前ではなく上に向かって撃つように」
そうした注意事項を伝えるため前説を行っていたが、だんだんとそれがパフォーマンスになり始めた。

「注意事項を伝えながら、お客さんの緊張をほぐすことができたら」
「漫才を前座であっためるように、上映最初からお客さんのテンションをマックスに出来たら」
きっと、イベント上映を心の底から楽しめるに違いない。
そういうサンサン流の気遣いでもあった。

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最初は、2015年10月10日
『キングスマン』のイベント上映の時だった。
前述の「KINGSMAN“Ladies and Gentlemen”上映」
スーツとメガネと傘でドレスアップした観客が集い、マサラ上映と同じく紙吹雪とクラッカーが劇場内に大きく舞い上がった。
前章での『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が、インド以外の実写映画で初めてのマサラ上映だったが、今回はその二回目となった。
スタッフもスーツ姿で出迎えた。

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その時、戸村さんはふと気づいた。
前回の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の時は、イモータン・ジョーのコスプレをはじめ、上映前に盛り上げてくれる面々がいた。
そのおかげで観客のテンションも最高潮に達し、上映開始からロケットスタートのような白熱したマサラを開催することができた。
今回の『キングスマン』はいない

――じゃあ、自分がやるしか、ない。

腹をくくった戸村さんは、「レディース&ジェントルメーン!」と大きく呼びかけながら壇上に登った。
マサラの注意事項も言った。
「紙吹雪やクラッカーは上に打ってください」
「傘はささないでください」
「あと、携帯電話はオフにしましたか? SIMカードは抜きましたか?」
劇中にあわせて小ネタを入れることも忘れなかった。

そして
「あとはみんなで楽しみましょう。レッツ、パーティ!
そう叫んだ戸村さんを、大きな歓声と、クラッカーや花吹雪がたたえた。

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後ほどスタッフから“前説芸人”と呼ばれることになる、その誕生の瞬間であった。