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第2章 語る映画館編「戦おう。ここが俺たちの世界だ」2/4

映画『桐島、部活やめるってよ』は、朝井リョウさんの同名小説を原作にした映画だ。
男子バレーボール部のキャプテン・桐島が部活をやめることをきっかけに、校内の日常に起こる変化や青春を描いている。
主演は神木隆之介。
2012年8月に公開され、じわじわと口コミが広がり、多くの賞賛を浴びる話題作となった。

同作の人気が爆発したのはいろいろな理由がある。
タイトルに出てくる「桐島」が登場せず、桐島を話題にする周辺の高校生たちだけで話が進む群像劇であること、高校のスクールカーストと呼ばれる階層を描いた作品であること、など。
そのためか、鑑賞後にファンの間で「作品について語りたい」「自分の高校生活について話したい」などの声が上がった。

それを、塚口サンサン劇場は見逃さなかった。
セカンド上映を、10月6日から2週間組んだ。

戸村さんは、同作を公開初日に観て、「これはやばい映画が来た」と思ったという。すぐに配給元に掛け合って、上映を実現させた。

何度も観たくなる映画である、ということも踏まえて、リピーター割引などのキャンペーンも実施。
上映中、「もう一度観たくなった」人たちが塚口に足しげく通い、さらに人気が拡大した。
それを受けて、10月27日からさらに1週間の追加上映が決まった。

そんな中、ある一つの企画が持ち上がる。
塚口サンサン劇場によく通っている一人のファンから、こんな提案があったのだ。

「鑑賞後に誰かと話したくなる映画なので、ぜひ劇場のスペースを使って上映後にそんな場を作ってほしい」

ちょうどその頃、塚口サンサン劇場の地下一階が空きスペースになった。テナントに入っていたゲームショップが退去し、劇場側もこのスペースをどう使おうか、考えているところだった。

「そうだ、ここを話し合う場にすればいい」

実は塚口サンサン劇場では、過去にそのようなトークイベントを開催したことはなかった。
劇場内でのトークイベントと言えば、真っ先に思い浮かぶのは、監督や俳優たちの舞台挨拶だろう。映画の上映前もしくは後に登壇して、作品の裏話や作った思いを語る。

だが今回は勝手が違う。
目的はあくまで、『桐島、部活やめるってよ』を観て「語りたい」という人たちの思いにこたえること。
語ろうとしていることをくすぶらせている人に来ていただき、一方通行ではない場にしないといけない。

その時、そのファンの方が登壇者を紹介してきた。
といっても、映画関係者ではない。評論家でもない。編集者だったりコピーライターだったり古本屋店主だったり、肩書はそれぞれだが、特にこの『桐島、部活やめるってよ』の映画とは何も関係がない人たちだ。

だが、今回のイベントは、その方が断然よかった。
関係者や評論家のトークだと参加者はそれを聞くだけという形になるが、趣旨とは違ってくる。それでは、みんなの「話したい」という気持ちの行き場を失ってしまう。

だからこそ、あえて無関係な人たちに登壇してもらい、観客の方々のトークのきっかけを作る。
登壇側が関係者じゃないからこそ、一観客の意見として話され、それに対して賛同や反対が出てくることで、皆さんが話すきっかけが生まれていく。

塚口サンサン劇場の戸村さんは、このファンからの企画に乗った。
SNSで語るのとはまた違う、同じ場を共有しているからこその強みを出したい、と考えた。

そうして生まれたのが、2012年10月13日に開催された、「桐島に、一言物申~す!!!ティーチインイベント」だ。
劇場のブログには
「桐島に振り回されっぱなしでいいのか! 桐島に一言言いたい! こんなに熱くさせた桐島について語りたい!」
という文字が躍った。

そして迎えた当日。
会場となった劇場地下一階のスペースは、60名を超える参加者で満席となった。
塚口サンサン劇場が新生して以来、初めての満員イベントだった。

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