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「これからの映画館のはなしをしよう」立誠シネマとシネ・ヌーヴォ、そして出町座へ 後編

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立誠シネマとシネ・ヌーヴォ、そして出町座へ。
「これからの映画館」を探るスペシャルインタビュー、後編です。
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シネ・ヌーヴォの山崎支配人(左)と、立誠シネマの田中さん(右)

■参加する、というキーワード

山崎 シネ・ヌーヴォでは、お客さんから「あの監督の特集やってほしい」という意見をもらうことが多いんですね。
もちろん吟味はしますけど、それで実行にいたったものもたくさんあります。

キネプレ シネコンではそんな提案はできませんね。
「参加できる」というのは一つのキーワードな気がします。
クラウドファンディングも、そもそものシネ・ヌーヴォの成り立ちも、一つの参加の仕方なのかなと。

山崎 もともとシネ・ヌーヴォが誕生した時、当時はクラウドファンディングがなかった時代でしたけど、一般市民の出資によって生まれた経緯がありました。
それも近隣からだけでなく、全国から。

田中 出町座のクラウドファンディングも、もともとの立誠シネマファンに加えて、遠方からの支援もありますよ。

山崎 そういった「参加できる意識」っていうのは求められている気がします。
だから昨年末からの改修工事のクラウドファンディングも受け入れられたんじゃないでしょうか。
昔との違いは、オープンしたときはまだどんな方たちか分からない人も多く支援していただいたんですが、今回の改修工事の時は、結構顔がわかる方が多くて。

田中 クラウドファンディングは、すぐサービス、というわけではなく、あとで還元しますしね。
最初に関わっていただいて、長くお付き合いをする、という表明ですから。

山崎 還元、けっこう大変ですよ(笑)。
シネ・ヌーヴォもまだまだ還元させていただいている途中で。

キネプレ でもその方が、みなさんも「自分が関わった」という意識や愛着がわきやすいのかなと。

山崎 そうですね。
シネ・ヌーヴォでも、いろんな意見や相談がもっともらえるようになれば、よりニーズにあった特集が組めたりするようになるのかな、と思ってます。

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■地域とのかかわり方

田中 ちなみに商店街の人からは、映画館ってすごく期待を受けています。
そこを目指して人が動くから。
出町座はまだ準備中ですが、すでにそういった声を商店街から聞いています。

山崎 ミニシアターはその話、よく言われますよ。
映画館は地域に根差しているようで、でも外からも人が来る理由になる場所なので。

キネプレ シネコンでは、基本的に商業施設の中で消費活動が完結していますしね。

田中 たとえば出町座の予定地では、大学生が多いんです。学生向けのマンションも多い。
つまりは、今の大学生だけでなくて、「かつて大学生だった」人まで数えると、ほんとにたくさんの人がいます。
そうした人が「住んでいた近くに映画館ができるなら、年に一回ぐらいはまた訪れてみて、映画館にも行こうかな」と言ってくれていたりします。そして、今は遠方なのに支援してくれていたり。
そんな動き方もあるんだなと思ってます。

山崎 わざわざその映画館に行く、という人を一定作れるわけですからね。

キネプレ ひょっとしたら、ミニシアターのほうが、そんな地域とのかかわり方がやりやすいのかもしれませんね。

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出町座(仮)の開設が予定されている出町桝形商店街

田中 あとは、地元の人たちですね。
いまも毎日、出町座予定地の現場に行ってるんですが、近所のおばあちゃんが言ってました。
「年寄りにも憩いの場所がいるんや」って(笑)。
「むかしは少し遠くても映画館に行ってたけど、もう行けないから、ここにできるなら通うわ」と。
出町の商店街を日常的に使用している人たちもたくさんいるから、そんな人のために何ができるかを考えていきたいなとは思ってます。

キネプレ あとは、出町座を目指してわざわざ行く、という人をどれだけ増やせるかですかね。

田中 そうですね、そこを増やしたいですね。

山崎 完成したら私はめっちゃ通いますよ、楽しみにしてるんで、よろしく(笑)

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■作り続けていく、という決意

キネプレ 出町座は、今の時点でキャッチコピーとかテーマとか考えているんですか?

田中 いやあ、まだないですねえ。
最初に作り上げたものが完成ではないし、10年20年そのまま、というわけではないですし。

キネプレ それはそもそも立誠シネマさん自体、関西のミニシアターの中では後発だと思うんですが、その時も最初から完成させたわけではなかったんでしょうか。

田中 そうですね。
どこかの映画館を見本にしたわけではなく、これはこうだからこうしよう、こういうお客さんがいて、こういうのが求められているからこう変えよう、とか、そういうのを色々考え続けた4年間でしたね。
もちろんそんないじれないところも多いので、できる範囲の中で、という感じですが。
それは出町座になっても、感覚としては同じだと思います。もちろんオープンするときにある程度固めていきますが、その後ももちろん試行錯誤は続くと思います。

キネプレ そんな立誠シネマさんは、シネ・ヌーヴォからはどう映ってたんでしょうか。

山崎 すごく能動的な映画館として見てます。
田中さんたちの映画知識が裏にすごくちりばめられていて、それに裏付けされたいろんな企画やイベントをどんどんやっている印象ですね。
4年ちょっとで400本の作品を上映した、というのも、シアター1つとしてはすごく多いと思います。

田中 ありがとうございます(笑)。

キネプレ そういう動きは、出町座になるとより取り組みやすくなるんでしょうか。
シアター数も増えて2スクリーンになりますし、カフェや本屋との取り組みも可能になりますし。

田中 そうあってほしいなあとは思ってます。
でもまだこれからですよ。ずっと考えていかないといけない。

山崎 シネ・ヌーヴォも、やっぱり間口を広げたいんですよね。
最近、シネ・ヌーヴォのむかいにカフェができたんで、連携の可能性が広がってきた気がします。

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出町座(仮)の完成イメージ
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シアター、カフェ、書店などが展開予定

■新しい世代が作る映画館の可能性

キネプレ では改めて。出町座をどういう映画館にしたいですか。

田中 たんに映画をかけるだけじゃないんですよね。
映画を観にわざわざ出かけるということの意義を感じてもらえるようには絶対しないといけないなと思ってます。
映画を観るという行為に付随するものを、見える形にしてあげるというか。
でっかいスクリーンでいい音で、と言っても、やっぱりそれだけじゃ限界があるわけで、だから大手も中小も映画館は皆んないろんな手をこらして人を呼び込もうとしている。
それに対する、うちなりの一つの形ですね。でもだからと言って、奇をてらうわけではないんですよね。

キネプレ やっぱり憧れは呼びやすいし、協力はしてもらいやすいとは思うんですけど、じゃあ憧れた人が一回だけ遊びにきて満足して終わって、って感じじゃあ、場所として続かないですからね。

田中 そのためにも、映画館にはある程度の「わかりやすさ」が求められているのかもしれません。
「そこに行けば、自分が何の体験を得られることができるか」というのを示していく。
出町座のカフェと本屋も、一つはそれなんです。
そういうのを見せないと、「ただ映画を見る」だけの施設として、時代の波に埋もれてしまう。
だから、この形態に踏み入れないとと決意して、舟をこぎだしたんです。
ただ、出町座のあるエリアは、可能性はたくさんあると思っています。
そこに、人が戻ってくるフラッグシップとして期待されている、というか。
先にお話ししたアトラクションとは違う体験の場としてのバランスを取りつつ、いろいろやっていきたいなと思ってます。
まだまだこれからですよ。

山崎 シネ・ヌーヴォもそうなんですけど、多くの映画館は、一回り上の人たちが立ち上げて、今はそこからバトンを受け取って運営している世代なんですよ。
それは映画業界だけじゃなくていろんな業界に言えることなんですけど。
でも田中さんたちは、そういう流れではない世代で、一から映画館をたちあげたい、という流れなんで、ほんとうに応援の気持ちしかないですね。
ほんと、遊びに行くからね(笑)

田中 ありがとうございます、お待ちしております(笑)。

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田中さん、山崎さん、ありがとうございました。
立誠シネマは7月30日(日)に閉館しますが、出町座(仮)が開館を目指して建設と準備が進んでいます。クラウドファンディングも受付中。
20周年を迎えてまた新たな展開が期待されるシネ・ヌーヴォの今後にもご期待ください。

詳細情報
【関連サイト】
立誠シネマプロジェクト
シネ・ヌーヴォ
「出町座(仮)」クラウドファンディング

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