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「これからの映画館のはなしをしよう」立誠シネマとシネ・ヌーヴォ、そして出町座へ 前編

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立誠シネマとシネ・ヌーヴォ、そして出町座へ。
「これからの映画館」を探るスペシャルインタビュー、前編です。
後編はこちら

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シネ・ヌーヴォの山崎支配人(左)と、立誠シネマの田中さん(右)

2013年にオープン以来、小学校だった建物を活用したその独特の雰囲気で愛されてきた京都のミニシアター「立誠シネマ」。
2017年7月末にその営業を終了しますが、実は新たな映画館の開設準備が進んでいます。

名前は「出町座」(仮)。
場所は、京都の出町柳駅から近い出町桝形商店街。
クラウドファンディングを活用し、本屋・カフェが併設された複合的な映画拠点を目指しています。
※詳しくはこちらの記事をご覧ください。

クラウドファンディングといえば、今年開館20周年を迎えた大阪・九条のミニシアター、シネ・ヌーヴォ。
2016年末から改装工事費をクラウドファンディングで募り、無事工事を完了しました。

それ以外にも共通項の多い2館。
今回は、閉館の迫った立誠シネマと、今後開設予定の「出町座」、そしてシネ・ヌーヴォの20年とこれからの話を、立誠シネマの田中誠一さんと、シネ・ヌーヴォ支配人の山崎紀子さんに伺いました。

お二人の話を通して、これからの映画館の話を考えていきたいと思います。

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立誠シネマ
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シネ・ヌーヴォ

■写真に映える映画館

キネプレ 実はこの2館は、クラウドファンディングだけでなく、「写真に撮りたくなるような映画館」という共通項もあると思ってます。

山崎 そうですね。半地下だったり、入り口にバラなどのオブジェがあったり。
劇団・維新派が手掛けた内装も特徴的で、シアタールームの中には水中をイメージした天井も印象が強い。
多くの人が写真に撮っていきますね。

キネプレ 多くの映画人がサインをしているロビーも雰囲気バツグンですね。

田中 立誠は、やはりもともと小学校、という特性が強いですね。
建物の現状をそのままに使用することが必須だった、という理由もあるのですが、そのままの雰囲気を残したことで、ロビーや通路も写真を撮りたくなる雰囲気が生まれたのかなと。

キネプレ いまでは、インスタグラムやツイッターもありますし、スマホで簡単に写真が撮れますしね。

田中 そうやって、映画館の知名度が広がっていった実感はありますね。
映画を観るわけでもなく、ただロビーをぶらりと訪れるだけの人もいて、そんな人たちが写真に撮ってSNSにアップすることで、ほかの人にも認知されていく動きは見てとれました。

山崎 さすがにシネ・ヌーヴォは、映画を観る目的以外の人はほとんど来ないので、ちょっとうらやましいかも。

キネプレ 立誠はカフェ(「Traveling Coffee」)もあります。

田中 立誠シネマと同時にオープンしたわけではないんですが、2015年から校舎の一階に「Traveling Coffee」さんが常設になったので、それを目当ての人もふらりと訪れるようになりましたね。
立誠シネマでも、ロビーで書店の出張販売も始めたので、そのあたりが今度の、映画館、カフェ、書店が複合した「出町座」につながっていっている気もします。

キネプレ シネ・ヌーヴォにも一階に実はバー施設があったり(現在は休業中)、レジ横の小さいコーナーでは本も売っていたりするので、実はうらやましいんじゃないかなと。

山崎 うん、すごくうらやましい(笑)。

田中 「映画だけやります」ということだと危ないと思うんです。
今の時代、逆に映画の可能性を狭めてしまうのではないかと。
今後はこんな複合的な施設が外でもどんどん生まれると思いますよ。

山崎 カフェメインのシアターも増えていっていますしね。

田中 海外でもよくある形なんですよね。だから日本でも増えてくると思います。

キネプレ カフェと本屋と映画館、というのは、ある意味みんなあこがれる、うらやましくなる施設だとは思います。
もちろん、実際に運営するのは大変でしょうが。

山崎 そう、大変だと思う(笑)。

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■シネコンではない、というところから考える

田中 でもどうしたって、映画を観る環境としては、シネコンの方が絶対的にいいんですよ、デカイし、設備がいいし。

山崎 空調も良いし(笑)。

田中 だから、ひとつはシネコンに対する「小さいコヤだからできること」を考えていったら、こういう方向が出てくるんです。
「大きなスクリーンで良い音響で映画を提供する」という体験においては、シネコンに絶対に勝てませんから。
じゃあ代わりに何を提供できるのか、と考えたうえでの一つの選択肢ですね。

キネプレ そのシネコンですら、「良い音響、大きいスクリーン」だけではデジタル配信の波に負ける、という焦りから、IMAXや極上音響、3D、4DXといったものに取り組んでいる気がします。

田中 だからこそ、ミニシアターならではの体験を打ち出さないといけないのかなと思ってます。
映画館はどんどんアトラクション化していっていますが、それとは違う方向で「ここだからこそできる体験」を提供する、というのが我々が取り組んでいることなのかなと。

キネプレ そうなんです、一つだけ気になるのは、その「アトラクション化」という言い方でして。
映画館の在り方でよく言われるんですが、じつは諸刃の剣な気もしています。
アトラクション、つまりディズニーランドやUSJに負けないものを目指せば、それは「一年に一回程度でいいかな」という気分も生んでしまっているような。

田中 その問題はあると思います。
そういう意味では、いまの立誠シネマには、映画は観ないけども場所として気になって遊びにきている人も多いし、それはそれで、別の形の体験なのかなと思います。

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■今後の出町座とシネ・ヌーヴォの展望

田中 京都市が運営から外れて、出町座は完全に、株式会社であるシマフィルムが運営する施設としてやっていきます。
やはり会社として映画館を運営する以上、「採算をとっていく」のは大事ですよね。
良い映画を選んで、上映してお客さんに来てもらって、それで運営側は利益を出していかないといけない。
そのうえで何ができるかを考えないといけないかなと思ってます。

山崎 シネ・ヌーヴォは、私や代表が作品を選んで上映しているんですが、やはり若い人にもっと気軽に来てほしいとも思ってます。
今多いのは40代・50代からシニア世代。20代・30代の人もいるんですが、ある時ぱたりと来なくなったりすることがあって。

田中 立誠シネマも30代が多いんですが、それはありますね。
学生はもちろん就職してどんどん世代交代していくと思いますが、社会人も、たとえば結婚・子供が生まれた、昇進、転勤など、不意にやってくる人生の転機で、映画館から離れてしまう人が多いかなと。

山崎 違う興味が生まれた、という人もいるしね。

キネプレ 「映画」って、なくてはならないもの、と考える人は少ないですし。

山崎 来なくなった人が、ふっと戻ってきたりはします。10年後とかに。
そのために10年頑張らないと、とは思うものの、なかなか大変で(笑)。

キネプレ 場所をつづける、というのはやはり生半可なことではないですからね。

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後編は、こちら

詳細情報
【関連サイト】
立誠シネマプロジェクト
シネ・ヌーヴォ
「出町座(仮)」クラウドファンディング

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