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初笑いは「神戸クラシックコメディ映画祭」で 主催団体委員長・いいをじゅんこさんに聞く

かつて「ニコニコ大会」と称して、チャップリンなどの短編喜劇映画を上映する上映会が催されていた時代がありました。とくにお正月の「初笑いニコニコ大会」では、喜劇スターたちの奇想天外のギャグに子どもたちは抱腹絶倒していたようです。映画解説者・映画評論家の淀川長治さんは子どもの頃の「ニコニコ大会」の思い出をさまざまな著書で振り返っています。
神戸クラシックコメディ映画祭は、そんな「ニコニコ大会」のイズムを引き継ぎながら、毎年1月に神戸映画資料館(新長田)と旧グッゲンハイム邸(神戸・塩屋)を会場に開催されています。今回は、神戸クラシックコメディ映画祭を主催する団体「古典喜劇映画上映委員会」の委員長のいいをじゅんこさんにお話を伺いました。


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神戸映画資料館で、クラコメのお客さんと皆でバスター・キートン(三大喜劇王の一人)に

――神戸クラシックコメディ映画祭が始まった経緯を教えていただけますか?
そうですね。最初のキッカケは、2012年の年末から始まった「コメディ学入門」を私が神戸映画資料館に持ち込んだことです。それは講座形式で、第1講のローレル&ハーディ(喜劇映画史上、最高のコンビと名高い)から、毎回ひと組の、サイレント期からトーキー初期までのコメディアンをピックアップして紹介するという企画でした。まず、講義で扱うコメディアンの映画を上映し、その後、スライドを見せながら私が二時間ほどお話する、そんな形式でした。講義は今のところ14講(いいをさんがアメリカのクラシック喜劇の聖地を巡った報告会)まで続いています。
そうこうしている中で、映画祭的なこともしたいな、といういう話が出て、2016年に喜劇映画研究会の新野敏也さんと一緒に『新春コメディ宝箱』を開催したんです。それがすごく楽しくて。じゃあ、これからも映画祭をやっていきましょうか、となり、2017年から神戸クラシックコメディ映画祭(以下「クラコメ」という)が始まったんです。

――クラコメ2018から、会場に旧グッゲンハイム邸が加わってますね。


旧グッゲンハイム邸の外観

はい。そして会場だけではなくクラコメを主催する団体「古典喜劇映画上映会」にも加わっていただきました。今も「古典喜劇映画上映会」は私と神戸映画資料館と旧グッゲンハイム邸で運営しているんです。


旧グッゲンハイム邸管理人の森本アリさん(左)、いいをじゅんこさん(中央)、神戸映画資料館・田中範子支配人(右)

――旧グッゲンハイム邸の管理人の森本アリさんは音楽家としても活動されていて、今年のクラコメ2023でも、旧グッゲンハイム邸で上映した三大喜劇王の一人バスター・キートンの『西部成金』(1925)の伴奏を森本アリさんが所属する塩屋楽団が担当されていました。塩屋楽団はコントラバスやギター、トランペット。シンセサイザーにサンプラーまで。前衛的で、さまざまな楽器が音を奏でています。現代的で豪華ですよね。塩屋楽団が参加されたのはいつからですか?


『西部成金』(1925)主演・監督バスター・キートンとヒロイン(牛)のブラウン・アイズ

塩屋楽団のリハーサル風景

えーと。たしかマルセル・ペレーズ(スペイン出身の喜劇人。かつて日本では「ダム君」の愛称で親しまれたが夭折し忘れさられてしまった)のときが最初だったと思います。あれがクラコメ2019だから。そう考えたら結構長いですね。塩屋楽団はその前から。2014年から神戸映画資料館で伴奏されていたんで。じゃあ……クラコメも……! と、お願いしたんです。それが2019年ですね。


マルセル・ペレーズ

――クラコメのチラシやポスターも素敵ですよね。これも2018年からですね。クラコメのプログラムのホームページ(神戸映画資料館)やチラシに「デザイン萩原こまき」とあるので、この方がデザインされていると思うんですけど。

初めて開催したときのチラシとかのデザインは自分たちで作ってたんですけど、2018年からはちゃんとしたデザイナーの人に頼もうとなって、萩原こまきさんにお願いしたんですよ。「NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ -発明中毒篇-」(クラコメ2021での特集をもとに2022年、全国で順次巡回され大きな話題になった)のパンフレットのデザインもしていただきましたね。本当に毎回素敵なんです。



萩原こまきさんデザイン「NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ -発明中毒篇-」のパンフレット

――2018年から日本の喜劇も上映されるようになります。クラコメのオープニング作品はだいたい日本映画から始まっていると思うのですが、何か意図があるんですか?

これはクラコメの根っこに「ニコニコ大会」があるからなんです。かつてのサイレント映画全盛の頃の日本は、淀川長治さんがその思い出をよく本に書かれていらっしゃるんですけど、お正月やお盆に「ニコニコ大会」というものが開催されていたんですよ。要はコメディ映画大会なんですが、それを再現したいというのがクラコメの根っこにあるんです。クラコメで日本のコメディを上映したら近所の、常連のお客さんも興味持ってやって来てくれるんです。「ニコニコ大会」なんだから皆で盛り上がりたい。だから年明けの一発目は、皆で盛り上がれる日本映画なんです。

――今年のクラコメ2023のオープニング作品『結婚適令記』(1933)は、サイレント映画ピアニストの柳下美恵さんの伴奏も相まって素晴らしかったです。


柳下美恵さん

主演のコメディアン、杉狂児がハロルド・ロイド(三大喜劇王の一人)を思わせる草食系の新聞記者を演じるラブコメディでね。本当に大好評でした。国立映画アーカイブ所蔵の、とても美麗な35ミリフィルムをお借りすることができて。2018年に始めた日本映画枠を含めて、現国立映画アーカイブはすごく頼りになる存在です。

――ちょうど2018年に名前に東京国立近代美術館フィルムセンターは、東京国立近代美術館から独立して国立映画アーカイブになりましたね。

そう。フィルムセンターの時代からお付き合いがあって、35ミリのすごく綺麗なフィルムをお借りできるので、毎回ありがたいな、と思っています。

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取材・文:浅山幹也
詳細情報
■プロフィール
いいをじゅんこ(クラシック喜劇研究家)
欧米古典喜劇映画の研究と普及活動を中心に喜劇映画上映の企画・立案、執筆活動などを行う。毎年1月開催の神戸クラシックコメディ映画祭で実行委員長兼プログラミング・ディレクターを務める(共催は神戸映画資料館・旧グッゲンハイム邸)。知られざる喜劇人チャーリー・バワーズを同映画祭にて特集し『NOBODY KNOWSチャーリー・バワーズ』全国公開にもスタッフとして関わった。人呼んで「古典喜劇の伝道師」。

■神戸クラシックコメディ映画祭会場
神戸映画資料館
(神戸市長田区腕塚町5丁目5番1 アスタくにづか1番館北棟2F 201、078-754-8039)
https://kobe-eiga.net/

旧グッゲンハイム邸(塩屋)
(神戸市垂水区塩屋町3丁目5−17、078-220-3924)
http://www.nedogu.com/