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「Sanpo magazine」編集・発行人 西川由季子さん

今回紹介するのは、大阪でミニコミ誌を継続的に発刊している西川由季子さんです。
雑誌の名前は「Sanpo magazine」。
散歩中に見つけた面白いことを、多くの人に伝えたい‐。
そんな思いで制作されているそうです。

誌面でいままで紹介したのは、古本、コーヒー、そしてジャズ。
でも4月発刊の「Sanpo magazine」第5号で、初めて「映画」の話が登場しました。
なぜ西川さんは映画を扱おうと思ったのでしょうか。また、関西で自主出版の活動を続けることについて、どう考えているのでしょうか。お話をうかがいました。


「Sanpo magazine」編集・発行人の西川さん

‐‐‐「Sanpo magazine」の第1号を発行されたのはいつですか?

西川 約4年前ですね。「昼ジャズ」という特集を組んだ冊子でした。私がジャズを大好きだからなんですが、ジャズを聴く場所って基本的に夜の営業が多いんですよ。私は主婦なので、夜中出歩くのに少し抵抗があって(笑)。だから、昼間にジャズを聴ける場所はないのかなと、探して歩いていたことがあったんです。
その時ふと「店の情報から探す過程まで、全部を記事にしたら面白いんじゃないか」と思い、勢いで創刊したのが第1号ですね。それ以来コンセプトは常に「街を歩いて、面白いところを見つけていく」というものなんです。

‐‐‐1号だけ出すのではなく、継続的に発刊された理由はなんですか。

西川 京都北白川の「古書 善行堂」店主で、“古本ソムリエ”こと山本善行さんと知りあい、継続的に手伝っていただけるようになったのが一つの理由です(当時はまだ古書店はされていませんでしたが)。
山本さんに会ったのは第1号の準備中でした。古本についての執筆活動を数多くされている人で、ジャズもすごくお好きなんです。その時、ジャズについての文章は書いていらっしゃらなかったんですが、どうしても書いてほしい。「じゃあ私が、山本さんにジャズについての執筆を頼んだ最初の編集者になろう」と思い連絡しました。全然面識なかったんですけど快諾していただき、今までずっと協力してもらってます。ちなみにジャズ以外に古本やコーヒーを扱うようになったのは、山本さんの影響もあります。
そして何より、読者の存在が大きいですね。2号以降、愛読してくださる方ができ、販売してくれる書店もだんだん増えてきました。ありがたいことだと思っています。


映画を前面に押し出した最新号

‐‐‐そして今回、初めて「映画」について紹介されました。

西川 実は私、大学で映画研究会に在籍していたぐらい映画好きなんです。だからジャズと同じように紹介したい思いはあったけど、どう扱うべきかピンとこなかったんですね。特に私がよく観るミニシアターやインディーズ系の映画は、紹介が難しいんです。
でも今回、マレーシア出身のリム・カーワイという映画監督と知り合う機会がありました。インディーズで活躍されている方なんですが、中崎町のミニシアターで、チラシを自分で配っている監督と話をしたんですね。そして観た監督の映画3本がどれも面白かったんです。その瞬間に「どうにかして記事にしたい」と思うようになりました。
リム・カーワイさんは、アジアのあちこちを飛び回りながら映画制作を続けている人です。その中で一時期、中崎町を拠点にしている時があったんですね。大阪に居を構えながら、行きたいところに行って映画を作る。活動が軽やかなんです。「地域にこだわりながらも、とらわれない」と表現するのがぴったりかなと。それがすごく面白いと感じました。だから作品だけでなく、監督本人についてぜひ紹介したいなと考えたんです。

‐‐‐読者の反響はいかがでしたか?

西川 最初は、いままで愛読していただいた方にとって、唐突な感じがするんじゃないかな、と思ってたんです。そっぽ向かれるんじゃないか、という不安もありました。でも古本やジャズが好きな人の中には、映画をたくさん見ている方も多く、好意的に受け取ってもらえました。「こんな監督がいることを初めて知った。一度作品を見てみたい」という感想をいただいたこともあります。多くの人に受け入れられて、すごくうれしく思いました。


最新号の制作について振り返る西川さん

‐‐‐関西でこういう冊子を発刊すること、また関西という土地でオリジナルの活動を続けることについては、どう思いますか?

西川 私の本業はイラストレーターなのですが、関西在住のデザイナーやイラストレーターって、なかなか仕事が得られないんです。「Sanpo magazine」の誌面が、そういった方の仕事やチャンスの場になればいいな、という気持ちでやっています。
関西についてつねづね感じているのは、個々に面白いことをやってる人はたくさんいる、ということです。でも、それが大きなウェーブにならない。点がいっぱいあっても線としてつながらないんです。その点地方のほうが、一つのムーブメントとして活気づくイベントが多いように感じますね。「街おこし」としての意味合いも強いとは思いますが。
関西は、良い意味でも悪い意味でも「都会」だからでしょうか、それぞれが楽しめればいいという部分が多いのかなと。個と個がつながらず、大きなうねりが生まれない。みんなシャイなのかもしれませんが(笑)。そんな個と個を結びつけるのも、『Sanpo magazine』のようなミニコミ誌が果たすべき役割なのかな、と思っています。

‐‐‐今後の「Sanpo magazine」はどういう展開を考えていますか?

西川 タイトルが「散歩」なんで取材エリアが広げられず、あくまで散歩の範囲内なんです(笑)。だから、街にからめてオススメを紹介する、という要素をずっと保っていきたいですね。そしてなにより、継続的に発刊したい。映画もどんどん扱っていこうと思っています。
いまは大手のメディアより、個人が地元に密着して発信する話の方が、面白く思われる時代になってきたのかなと感じています。「Sanpo magazine」も地域に密着という目線を忘れず、「自分が面白いと思えるもの」を伝え続けたいですね。

 

ありがとうございました。
西川さんは「Sanpo magazine」以外にも、「大散歩通信社」という名前で、書籍の出版を手がけています。
「Sanpo magazine」は関西や東京・岐阜など、各地の書店で販売中。
詳しい販売場所は大散歩通信社さんのサイトをご覧ください。


「大散歩通信社」名義で手がけた書籍の一部

(2012年8月 取材・執筆:森田和幸)

■サイト
大散歩通信社
http://d.hatena.ne.jp/cricket007/
古本・ジャズのミニコミ誌、最新号で映画特集企画 【キネプレ記事】
http://www.cinepre.biz/?p=942