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『チョコレートドーナツ』をイラストレビュー/ペンギンシネマ放談 vol.04

ペンギンシネマ04
今回の映画は、全米の映画祭で観客賞を総ナメにした『チョコレートドーナツ』です。
舞台は1979年のカリフォルニア。ショーダンサーでゲイのルディ、ゲイであることを隠しながら生きる弁護士のポール、そして母親から見捨てられたダウン症のマルコ。3人は偶然出会い、そして共に暮らし始めます。

しかしある日、ゲイカップルの元で子どもが育つには悪影響という理由により、ルディとポールは、マルコと引き離されてしまいます。


 
同性愛への理解がない時代の物語
この映画は、いくつかのテーマを持っていますが、同性愛への差別もその一つです。

ソチ冬季五輪の時に、ロシアの反同性愛法が注目されたように、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)への差別や偏見は未だに根強いものです。

同性愛結婚が世界で議論され始めるのも1980年以降。『チョコレートドーナツ』は1979年の物語ですので、現代よりも更に同性愛への理解はない時代です。

劇中でも「ゲイという理由だけで、そこまでされるの?」と驚くシーンも出てきます。

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(C)2012 FAMLEEFILM, LLC

世界中で「観客賞」を受賞した理由
そもそも映画として、ゲイカップルと障がい者という題材は難しいものです。
その事自体への讃歌としたり、美徳とする物語にもなりかねませんし、設定自体をダシに使うことで涙を誘うことも出来るでしょう。
しかし、この映画の素晴らしいのは、決して「お涙頂戴もの」として作っている訳ではないところです。
このゲイカップルと障がい者という設定を、感動的要素に使ってはいません。

劇中のルディたちも、同性愛について暴言を直接吐かれるシーンはありませんし、マルコと引き離される理由も、それがマルコの為と思っている人がいるからです。
社会が無自覚な差別を持ってルディたちを責めつづけるところに、現実で起こり得た真実味を感じることが出来ます。

現にルディを演じるアラン・カミングはバイセクシュアルを公言しており、2007年に同性愛結婚をしています。
仮に事実をねじ曲げるような演出があったとしても、マイノリティグループに属する彼自身が許さなかったことでしょう。
そんなリアリティを感じるところが、映画祭で「観客賞」を受賞した理由の一つではないでしょうか。

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(C)2012 FAMLEEFILM, LLC

映画に彩りを添える名曲たち
さて、劇中ではルディが歌うシーンが何回かあるのですが、これがとても素晴らしいのです。
それもそのはず、ルディ役のアラン・カミングは、ミュージカル「キャバレー」でトニー賞を受賞するほどの歌唱力の持ち主。
そして、ルディが歌う時の出来事と歌詞がとてもマッチしており、映画に彩りを添えてくれます。

ルディの心情をあまりにも的確に表しているため、本作のオリジナルソングかと思ってしまいますが、実はT.REX、フランス・ジョリ、ローズ・ロイスなど全て1970年代の楽曲たちです。(1979年の物語なので、それ以前の曲で構成されているのも見逃せません)
これらの歌たちが、暗くなりがちな映画のテーマに救いと説得力を持たせてくれており、重要なファクターになっています。

特にラストに歌われるボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」は圧巻です。
『チョコレートドーナツ』の原題は”Any Day Now(いつの日か)”なのですが、この原題も「I Shall Be Released」の一節から取られています。
最後にルディは、「Any Day Now〜♪」の後に続く歌詞を少しだけ変えて歌っているのですが、私はここで泣いてしまいました。良かったら耳をすまして聞いてみて下さい。

■参照リンク
『チョコレートドーナツ』公式サイト
http://bitters.co.jp/choco/
全米で観客賞総ナメの大ヒット作 『チョコレートドーナツ』関西へ[ニュース]
http://www.cinepre.biz/archives/12252

「ペンギンシネマ放談」は、毎月第1月曜日に配信します。
次回は6月2日(月)更新予定。お楽しみに。
(ブログ「着ぐるみ追い剥ぎペンギン」さまからの寄稿です)