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「映画を映画館で観てもらう」ための5つの施策とは―映画鑑賞の「イベント化」事例を紹介

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スマートフォンの普及によって娯楽が多様化したほか、ネットを活用したストリーミング配信で新たな映画の鑑賞方法が広がり、いま映画という娯楽を取り巻く環境は、大きな変化の渦中にある。
一部では「もう映画館で映画を観る時代ではない」という声も上がっている。
そんな流れの中で、「映画館で映画を観賞する」ということはどこまで追求できるのか。
そして、それぞれの映画館は、どのような形で生き残りの施策を行っているのだろうか。

5つのパターンに分けて、その事例を紹介する。

【1】デジタル化を逆手に取った3D・4DX・IMAX体験の提供

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アースシネマズ姫路の4DXシアター

2015年は、映画館で4DXやIMAXが大きく普及した年であった。
それより以前から、3Dでの映画観賞、という形で、「映画館でしか味わえない高度な体験」を提供しようとする動きはあり、たとえば映画『アバター』(2009年)の大ヒットはその流行を後押しした。
その後、3Dブームはいったん沈静化したものの、今度は間を空けて、4DX・IMAXという波が到来。関西では、2015年7月のアースシネマズ姫路の誕生を皮切りに、多くの4DXシアターが誕生した。
IMAXシアターについては、2015年公開の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が、「監督の意図した映像美を正確に堪能できるのは109シネマズ大阪エキスポシティのみ」という評判が広がり、話題となった。
アトラクションのように五感で楽しむ4DXと、家のテレビでは現状まだ不可能なほど高画質の映像を大スクリーンで堪能できるIMAX。追加料金が必要というのがネックではあるものの、自宅での映画観賞との一番大きな差別化として、映画業界をけん引している。

【2】音響を強化した上映スタイル

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塚口サンサン劇場での『ガールズ&パンツァー 劇場版』イベント上映

映像ではなく、音響を重視する動きもある。2008年から開催されていた「爆音映画祭」はその一例で、音楽ライブ用の音響セッティングでの映画鑑賞が人気を博した。
そんな中、立川シネマシティがスタートさせた「極上爆音上映」(通称「極爆」)は映画ファンだけでなく一般客にも認知を広げた。その映画の為にセッティングされた音響設定で、極上のひと時を楽しむ、というスタイルが定着。関東圏外からも多くの人がわざわざ極爆を楽しむために訪れることも、いまではよく見られる光景だ。『シン・ゴジラ』をはじめとして、他の映画館では上映が終了したのに、立川の極爆のみ上映が続いているケースも珍しくなくなった。
関西では、塚口サンサン劇場が特製ウーハーを導入して「重低音ウーハー上映」をスタート。とくに爆撃・銃撃などの音響と相性がよく、『ガールズ&パンツァー 劇場版』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などでその名を知らしめた。

【3】発声可能・イベント上映

塚口サンサン劇場での『マッドマックス 怒りのデス・ロード』イベント上映の様子

もともとは『ロッキー・ホラー・ショー』での参加型上映や、インド映画のマサラ上映(クラッカーを鳴らしたり紙ふぶきを巻いたり踊ったり)に端を発するが、近年ではそのライブ感、一体感が認知され、様々な大作映画でも取り入れられるようになってきた。例えば『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』『HiGH&LOW THE MOVIE』『アナと雪の女王』『シン・ゴジラ』『ラ・ラ・ランド』などが挙げられる。
スタイルも様々で、クラッカー・紙ふぶきを使用するもの、コスプレオッケーなもの、立ち上がってダンスするもの、声を張り上げて応援するもの、一緒に歌うもの。作品の雰囲気に合わせてこれらを組み合わせながら、盛り上げを模索している。
音楽業界では配信のデジタル化の影響を受け、CD販売よりライブ収益に重きを置くアーティストが増えてきたが、映画業界も同様の道が生まれ始めているとも言える。音楽フェスにも共通する一体感が得られるとして、イベント上映には必ず出席するというヘビーリピーターも数多い。
塚口サンサン劇場では、マサラ上映のインド映画以外への導入を精力的に実施。『ガールズ&パンツァー 劇場版』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『キングスマン』などのコスプレ・クラッカーありの上映は、関東の映画館にも導入されるなど、一つのスタイルを確立した。

【4】舞台挨拶・トークショーの強化

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『3月のライオン』舞台挨拶

とくにミニシアター系、単館系と言われている映画館で精力的に実施されているのが、舞台挨拶、トークショーといわれるイベントだ。監督や出演者たちが登壇し、作品の裏話やマル秘エピソード、作品にかける思いを話すイベントで、以前に比べて実施される回数が増加している。
小回りが利くことから、とくにミニシアターで精力的に開催されている向きもある。小規模作品では、上映期間中毎日関係者が登壇するケースもあり、作品を見るだけではなく話も聞ける、というお得感もある一方で、それぞれの関係者や知り合い、登壇者に興味を持つ人の来場が見込める、ということから、頻繁に実施されるようになった。
ミニシアターでは司会を支配人が担当することも。経費を抑えながら、映画館でしか味わえないプラス体験を提供しようという試みがみてとれる。
一方でシネコンでは、東京で豪華な舞台挨拶を行い、それをライブビューイングで全国同時中継、という手法も行われている。
マスコミの注目を集めやすい、というメリットもある。著名俳優や監督が登壇することで、取材され記事で拡散される効果を見込んだ映画宣伝方法が一般化している。

【5】演奏付き・活動弁士上映の開催

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活動弁士付きの上映

「活動弁士」とは、サイレント映画時代に活躍していた、登場人物のセリフや状況を解説する人のこと。映画に音がセットされた「トーキー映画」の隆盛とともに数が減っていったが、いまも定期的に活弁上映が開催されている一方で、この昔ながらの上映スタイルを、デジタル全盛のこの時代だからこそ「新しい体験」として提供しようという動きが生まれている。ピアノやバイオリン、アコーディオンなどの生演奏も併せて、「その場でしか味わえないライブ感」を創出しようとする場合もある。
またそれに近い形として、コメント付き上映、コメンタリー上映、というのも多数行われるようになってきた。【4】のトークショーに近いが、上映中に解説やコメントをさしはさみながら行われるもので、映画監督や知識人が登壇することが多い。

他にも細かな動きは多数あるが、大別するとこの5パターンが考えられるだろう。
どれもが「映画館のイベント化」とひとくくりにされる事例だが、内情はそれぞれ違う。
予算の多寡だったり、可能な作品とそうでない作品があったり、手間がかかったりとそれぞれの手法は一長一短だが、シネコン・ミニシアター問わず、これらの手法を組み合わせながら、生き残り策を模索していると言えよう。

映画ファンはよく「映画は映画館で観るべき」と話す。
ただ、いまの時代、実際に映画館で映画を観る魅力を人に理解してもらうのはなかなか難しい。
それほどまでにデジタルとネットの革新が生み出す状況は、刻一刻と動き、映画体験そのものが変化を始めている。
そうした中では、映画館という「不特定多数の人が一カ所に集まって、暗がりの中で映画を観る」場所の価値も、変化せざるを得ない。
そのための企業努力が、この5つのパターンに表れている。
映画館は「映画館での楽しみ」を提供することに必死なのだ、いままでのどの時代よりも。