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2013年03月04日(月)
[中の人番外編]シネ・ヌーヴォ・山崎さん

「ミニシアターの中の人」番外編。キネプレ編集部による、「中の人」インタビューです。

大阪・九条にあるミニシアター「シネ・ヌーヴォ」は、とても目を引く外観をしている。
まず手前に、趣のある書体で「映画館」と記された看板。そしてレンガで覆われた壁面。緑のツタがはっているのも、雰囲気抜群だ。
「シネ・ヌーヴォ」と大書された入り口を過ぎると、ちょっとだけ地下に下っていく、という構造もニクい。
秘密の基地にやってきたみたいで、すごくワクワクする。

今回話を聞いたのは、そんな「隠れ家的ミニシアター」、シネ・ヌーヴォ支配人の山崎紀子さんだ。
山崎さんとシネ・ヌーヴォとの付き合いは、最初のアルバイトから数えると12年に及ぶ。映画館の運営に携わりながらいろんな映画を観ていくうちに、「優れていても埋もれてしまっている映画はたくさんある。そんな作品を、もっと多くの人の目に触れさせたい」という思いが強くなっていった。苦楽を共にしたスタッフが育ち、旅立っていくのを見送りながら、2008年に支配人に就任した。

シネ・ヌーヴォの開設は、16年前にさかのぼるという。
それ以前もこの地に映画館はあった。だが何度も経営者が変わり、休館を繰り返していた。
現シネ・ヌーヴォ代表の景山理さんは大阪で、自主上映会を開催しながら「映画新聞」という発行物を制作。映画の灯をともす活動を続けていた。
「じゃあ、実際に映画が観れる場所を作ろう」
そんな思いが起こってきたのも、当然の流れだっただろう。映画ファンの方に出資を募ったところ、予想以上にたくさんの方の協力を得ることができた。
そして1997年に「シネ・ヌーヴォ」が完成。それ以来、多くの映画ファンに愛される場所となっている。

最初に述べた外観もさることながら、多くの人の印象に残るのは、シアター内の天井だ。大阪を拠点に活動を続ける有名劇団「維新派」が手がけたという内装が、このミニシアターにより一層の印象深さを与えている。
だからだろうか、シネ・ヌーヴォは観た映画と一緒に記憶されることが多い。「『あの作品はシネ・ヌーヴォで観たよ』と言ってくれるお客さんがたくさんいます」と山崎さんは話している。
かつては多くの人が、映画体験をその映画館とセットで覚えていたものだった。でもいまではその気分が少し薄れているかもしれない。良し悪しは別にして、確かにシネコンで観た映画は、場所までは記憶に残りづらい。
その点このシネ・ヌーヴォでは、多くの人が場所に強い印象を抱いて帰る。「作品だけでなく、場所とセットで覚えてもらえるのはやっぱりうれしいですね」山崎さんの声は心なしかはずんでいた。

シネ・ヌーヴォは、よく特集を企画している。そこに見てとれるのは、「過去の偉大な監督や俳優を紹介する」という矜持だ。
たとえば2012年だけをみても、山田五十鈴、舟木一夫、淡島千景、今井正、相米慎二……多彩で豪華なラインナップを提供してきた。中でも、「シネ・ヌーヴォだからこそできる特集を」という意識が強いように思える。
昨年実施した中で例を挙げるなら、木下恵介特集だ。木下監督は、活躍当時は黒澤明と並び称されたほどの巨匠。しかし黒澤が芸術性を評価され、「世界のクロサワ」になっていったのに対し、娯楽作品を作り続けた木下監督は、現代までさほど名前が知れ渡ることはなかった。
「古いけど、新たな発見。それを目指しているのですか」そう言うと、我が意を得たりとばかりに「そうなんです、それが理想です」という答えが返ってきた。埋もれつつある人を掘り起こし、今の人に再発見させる。誰もが知っている巨匠だけでなく、それ以外の人にもきちんと光を当ててやる。それがシネ・ヌーヴォと山崎さんが自身に課している「役割」の一つなのかもしれない。
もちろん監督や俳優以外の特集も、ほんとに多種多様だ。昨年はポーランド、ロシア・ソビエト、インド、ブラジル、中国。世界中、と言っても言い過ぎではないほど、ありとあらゆる国の名作を上映した。山崎さんは「時間も距離も飛び越えて、世界中どこへでも行くことができるのは幸せなことだ」と語っていた。九条の下町にある、世界へ開かれた「どこでもドア」。そんな側面を感じ取ってみるのもいい。

シネ・ヌーヴォXの存在も、同館の特徴の一つだ。それまでは普通の部屋として使っていた空間を、2006年に改装して「上映室」にした。わずか24席の小さなスペースだが、それがどうしてあなどれない。映画がたくさん作られるようになったのと反比例するように映画館が閉館している現在、「かけたくてもかけられない」作品が数多く生まれている。山崎さんはそんな作品に、「ここでよければぜひ」とすすめている。
「映画は、観られてはじめて映画になる。シネ・ヌーヴォXという小さな場所でも、上映する機会を差し上げることができれば」
この空間に、そんな思いを託している。
本館で上映が終了した作品を、融通させてあげられるのも利点だ。「人気が出た作品をもっと上映したいけど、次の作品が決まっているから延長できない」そんな時、ヌーヴォXが活躍する。
少しでも多くの人に、良作と出会ってもらうために。そのための設備として、「シネ・ヌーヴォX」は機能している。このことは「たくさんの人に作品を観てもらいたい」というシネ・ヌーヴォのもともとの理念に、見事に合致しているように思える。

いまでは配給側からも、「誰々の生誕何周年なんですが上映しませんか」という相談が増えたという。「周年企画、俳優・監督特集を根強く行っている映画館として、ちゃんと認識されているのでしょうね」と山崎さんは話す。
多彩な特集上映、雰囲気のある外観と内装、そしてヌーヴォXの存在。どれもが、「訪れた人へ良い映像体験を与える」ことを目的としているように思えた。いろんな巨匠や名優を知ってもらうために。映画作品が場所とともに記憶される素敵なものになるように。そして、より多くの人に作品を届けるために。
九条の駅から徒歩3分。隠れ家のような雰囲気は、まさに「映画の秘密基地」だ。多くの人が良作と出会えるように。山崎さんはじめシネ・ヌーヴォのスタッフはいつも、映画と人が触れ合うのを待ち望んでいる。



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