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「夢追い人じゃなくても人生は楽しい」映画『凪の憂鬱』磯部鉄平監督&主演・辻凪子インタビュー!


磯部鉄平監督(左)と辻凪子さん(右)

大阪のインディペンデントシーンから朝ドラまでどんな場所にもするりとなじんでしまう女優・辻凪子。そんな彼女と共に作り上げてきた短編『凪の憂鬱』シリーズが、長編映画となって劇場公開。
舞台は、大阪。観光地ではない、生活圏内半径2㎞!?の普段着ライフムービーが完成した。
東京の4月より上映が開始されたシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』では、上映6週目に入り、観客からは"ほっこり笑えてまるで「観る温泉」"という声もあがっているほどだ。
今回は、磯部鉄平監督と主演・辻凪子さんに今作についての思いをインタビュー。

■主人公のライフムービー!高校生編、大学生編を経て、今作は契約社員編。
今作は、第11回オホーツク網走フィルムフェスティバルに別々の作品で参加したとき、共通の友人である俳優の声かけで始まった。皆で集まり急遽撮影したのが2018年の『高校生編』だ。
これは、主人公・凪が網走の魅力を地元の人にインタビューしていくというご当地紹介ムービー。「実は、最初断ったんですけど、辻さんも参加するときいて、それなら!と。辻さんとは僕が監督になる前からの知り合いだったので」と監督。辻さんも「でも、それがこんな長編となって劇場で上映されることになるとはびっくり」と振り返る。

★「高校生編」(YouTube)
https://youtu.be/RqWO6QIa94k

その後、2020年に『大学生編』を撮影したのち、2021年冬に長編の撮影を開始した。
長編は、大きな事件はおこらないけれど、日々の小さな出来事が意外と慌ただしいそんな1週間を切り取っていくスタイルとなった。

★「大学生編」(YouTube)
https://youtu.be/ULXpEKa3NdM

物語は、社会人になった凪の日常。契約社員となった凪は、初めての有給休暇で彼氏に振られてしまう。ふさぎ込んでいるところに、友だちにミュージックビデオの制作を手伝ってほしいと言われ、凪はスタッフとして参加させられる。撮影をしたり、銭湯へ行ったり、怪談会で恐怖体験を話したり、映画を観たり、ゲートボールをするはめになったりと、凪は周りの人にどんどん巻き込まれていくのだが、凪はこの日々、どう過ごす?

■監督が思う、女優・辻凪子の魅力とは?
「この主人公は監督が自分にあてがきをしてくださったキャラクターなので、素がめっちゃ出てるんです。それがちょっとはずかしいから、大丈夫ですか?みたいな(笑)」と辻さんがいうと、監督は「彼女はリアクションがすごくいいんです。令和のコメディエンヌなんですよ。他の映画やドラマでは、ボケを演じることも多いのですが、普段はツッコミだと思う。その日常を引きで観ているような感覚を、僕が撮るなら出したいなと」。

これを受けた辻さんは「ほんとに、見抜かれてます。私、ボケに憧れているんですよ。陽気な人に憧れがあって。こんな明るい人になりたいなって思う。でも、本来の自分はそうじゃなくて、そこ見抜かれてますね。多分私と監督、よく似てると思う」と笑う。

だからこそ監督は辻さんに演出をあまりしなかったそうだ。「ウケが上手い女優さんだからこそ、スイッチオンして演じる姿より、そうじゃない普段の辻さんを見せたかった。主人公の凪も、辻さんといっしょ。凪も、周りからいろんな出来事が押し寄せてきて、ずっと受け続けていくでしょ」。

辻さんも「脚本の中に、答えがあって、それを私が体感していくだけ。あとは、その場でみんなで作っていく感じでした」と話す。

■スクリーンには日常の大阪がいっぱい。通天閣が出てこない大阪映画を目指した。
今作はロケ地についても注目しておきたい。大阪といえばコテコテの新世界を思い出す人も多いかもしれないが、監督は「僕が自転車で行ける範囲で撮影した映画です」と笑う。登場するのは、十三の何気ない路地や銭湯、自転車店や淀川や天満、ちょっと足を延ばして塚口サンサン劇場など、観光地ではなく生活圏、関西人ならなじみのある風景がたくさん登場する。

実は取材の前に、銭湯や自転車店へ、お礼に伺った二人。地元の人の協力もあって完成した作品と言ってもいい。


ロケ地となった自転車店「カンバヤシサイクル」のご夫婦と。

銭湯「宝湯」の店主と一緒に。

「僕はミナミには住んでいないので、通天閣は出てきません。僕、近所で映画撮ってるんで」と監督が言うと、「それでもちゃんと大阪ってわかるのがすごいなって。十三のかに道楽や淀川とか」と辻さん。

■巻き込まれ方の日常には、怪談会や、ゲートボールで隣町との対抗試合に参加する場面も!?

凪は怪談を披露するのだが、「あれは、僕の唯一の恐怖体験なんです。20年言い続けて練られまくった十八番です」と言う。「あの場面、旨いねってみんなに言ってもらえるんですよ」と辻さん。では、ゲートボールは?と聞くと監督は「昔はよく近所の公園でやってたじゃないですか。でも最近すくなくなったなって。そこで僕、大人になってから、ルールとか話を聞きに行ったことがあったんですよ。映画になりそうなルールだなと思って、どこかでやりたいなと思ってたんです」と振り返る。


怪談会で怪談を披露する凪

ゲートボールになぜか参加することになってしまい……

塚口サンサン劇場で映画も観るが……

■夢追い人でなくても人生は楽しい。凪は、受け身の様で、実は一番地に足がついている

周りに巻き込まれながらも、日々の暮らしをゆるりと過ごしている凪の姿を観ていると、この先、凪はお母さんになって、子供産んで、おばあちゃんになったらゲートボールに参加する?そんな「おばあちゃん編」まで撮れそうな『凪の憂鬱』は、これからも続いていくのだろうか。

「そうですね。続きは撮れると思ってます。結婚したり、子供が出来るかもしれないし、同性代の友達がいるから、いろんな人生があるはずです。結婚しない人もいるだろうし」と監督。
辻さんも「30歳になったら、見えている景色も全然違うと思うんです。もし私の子供が生まれそうになったら、磯部監督を呼ぼうと思います。今、おなかおっきいよ、リアルが撮れるよって」と楽しそうだ。

日々の仕事を着々とこなし、周りの求めにも答える凪の日常。夢があるかといえば、はっきりとは見えていない。友達はみなミュージシャンを目指したり、映像作家になりたかったり。そんななか、凪は常にマイペースだ。

そんなキャラクターについて監督は言う。「凪は、周りに巻き込まれながら、些細な事で揺らぎつつ暮らしているのですが、実は一番地に足がついているのも凪なんですよ。一番しっかり生きている。周りは夢追い人ばかりですから」という。「これまでにも夢を追いかけている人の話は撮ってきた。自分も映画に対する夢があるから、自身を重ねて撮ってきたのだけど、もしかしたら、そっちじゃない人を撮ってもいいのではと。それでも楽しいですよね人生は。何かを成し遂げないといけないわけじゃない。肩の力を抜いた方がいい時もあるじゃないですか」。

辻さんも「女優としてがんばらなあかん!みたいな気持ちは休日でも抜けない。普段は、主人公の凪より、映像作家になりたいあみ(佐藤あみ)ちゃんやシンガーを目指す根矢(根矢涼香)ちゃん側ですから、凪の人生もええやん!と思いました」。

最後に、「ロケ地はほぼ大阪なので、ゆっくりと肩のチカラを抜いて楽しんでください」(監督)、「映画を通して観たほうが、大阪が素敵に見える。関西の皆さんが住んでいる場所は、こんなに素敵なんですよと伝えたいですね」(辻さん)と締めくくった。

『凪の憂鬱』は大阪・十三のシアターセブンで6月3日(土)、京都シネマで6月9日(金)、神戸の元町映画館で6月17日(土)から、尼崎の塚口サンサン劇場で6月30日(金)から、それぞれ上映。

取材・文:田村のりこ

映画『凪の憂鬱』予告編

詳細情報
■上映日程
・シアターセブン
 6月3日(土)~

・京都シネマ
 6月9日(金)~

・元町映画館
 6月17日(土)~
 ※『コーンフレーク』と日替わりで上映

・塚口サンサン劇場
 6月30日(金)~

■サイト
映画『凪の憂鬱』公式サイト
シアターセブン
京都シネマ
元町映画館
塚口サンサン劇場