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マリオの映画が大ヒットするだろう4つの理由 任天堂とイルミネーションの創作の共通点

アニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がいよいよ本日4月28日から公開となった。

全世界ですでに興行収入は 8億7000万ドル(約1162億円)を突破。2019年公開の『アナと雪の女王2』を初速で上回り、アニメーション映画として史上最大のロケットスタートを切ったのちも勢いは衰えず、記録を更新し続けている。
一方、マリオが生まれた母国ともいうべき日本では、少し遅れてのロードショー公開。これは、ゴールデンウィークにあわせての公開戦略を考えた結果だと思うが、すでにアメリカなどから高評価・絶賛の声が届いており、期待を膨らませているファンも多いだろう。

本稿ではこの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の画期的な点と、きっと日本国内でも大ヒットするだろう理由について、4点を挙げて解説しようと思う。


© 2023 Nintendo and Universal Studios

デート・ファミリー向けの鉄板な選択肢

まずは、「スーパーマリオ」という題材の、圧倒的認知度の高さだ。
マリオというキャラクターが生まれたのは、1981年。任天堂の制作した「ドンキーコング」での主人公キャラとして誕生したがまだこの時名前はなかった。ドンキーコングは敵役だったが、続編の「ドンキーコングJR」では主人公になり、前作主人公が敵役になって「マリオ」と命名された。
1983年にマリオシリーズの正式な第一作である「マリオブラザーズ」が発売。その2年後の1985年に、金字塔的な作品となる「スーパーマリオブラザーズ」が誕生。社会現象とも呼べる空前のブームを巻き起こし、「ファミコンと言えばスーパーマリオブラザーズ」とも言われるほど、ファミコン時代を代表するゲーム作品となった。
それ以降、さまざまな続編、派生作品が多数制作。特に「マリオカート」は今なおNintendo Switchの人気ゲームであり、「大乱闘スマッシュブラザーズ」などでもマリオの人気は高い。そして2021年3月に、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内に「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が開業。任天堂の世界観を再現したエリアとアトラクションが人気で、やはり中心にはマリオが据えられ、「スーパーマリオワールド」と誤認する人も多かったほどだ。

このように、「マリオ」というキャラクターは、誕生から40年以上も経過しているにもかかわらず、今なお多くの知名度を誇っている。筆者はファミコンで遊んだ最初のゲームが「スーパーマリオブラザーズ」だった世代だが、マリオのゲームをプレイしたことはない若者や家族連れでも、「マリオカート」や「スマブラ」を遊んだことはあったり、USJで「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を楽しんだりしたことはあったり、と恒常的に「マリオ」に触れている。
この、「誰もが知っている」という一点において、この春公開の映画の中ではほかの追随を許さない。他に原作が人気の映画だと『聖闘士星矢 The Beginning』(4/28公開)や『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命』(4/21公開)、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(4/14公開)があげられるが、マリオの知名度には及ばないだろう(次点でコナンだろうか)。

そして「誰もが知っている」ということは、「映画を知人と観に行くときに誘いやすい」ということである。
ゴールデンウィークに高校生や大学生のグループで、家族連れで、恋人や夫婦のデートで、「映画館で映画観よう」という話になったとき、「マリオにしようか」という話が出るのは、想像に難くない。ここでファミリー層に圧倒的な人気を誇る『ミニオンズ』シリーズのイルミネーションが制作を手掛けていることもポイントは高く、「あのミニオンのところが作るマリオなら楽しめそうだ」という安心感はとても大きい。


© 2023 Nintendo and Universal Studios

宮本茂さんとイルミネーションの親和性

この「スーパーマリオブラザーズ」、そしてマリオというキャラクターを生み出したのは、任天堂の宮本茂さん。ドンキーコングの生みの親でもあり、ゼルダシリーズもこの人の手によるものだ。以降のゲーム業界に与えた影響も大きい。現在は、任天堂株式会社の代表取締役フェローという立場で、同社の陣頭指揮を執っている。


イルミネーションのCEO クリス・メレダンドリ氏(左)、任天堂株式会社代表取締役フェロー 宮本茂氏(右)
© 2023 Nintendo and Universal Studios
© OKUNO KAZUHIKO

この宮本さんが以前、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーのラジオ「ジブリ汗まみれ」に出演した時、このようなことを話していた。(2009年6月放送)
鈴木「いま、マンガ・アニメ・ゲームを中心として、ジャパンカルチャーで国を立て直そう、という動きになっているんですけど、そのあたりどう思いますか?」
宮本「いや……どっちでもいいと思うんですけど(笑)。淡々とやっているだけで。商品を作って、それが世界で売れるかがすべてなんで。国に支援してもらうとか、終わった後でいろいろ言われても照れ臭かったりしますし」

このあたりの会話に、宮本さんのスタイルが強く表れている。誤解を恐れずに言うなら、「表彰されることを気にしない」ということだ。受賞したり、何かしらの冠を授けられることを目標にゲームを作っているわけではなく、あくまで「お客さんに楽しんでいただいて、ゲームがたくさん売れる」ことを目指している。もちろん多くのゲームクリエイターが目標としていることではあるが、ここまではっきりと言い切って貫ける人は多くはない。

そんな宮本さんが、「約10年前に会って話す機会があって、私のゲームの作り方と彼のアニメの作り方が似ているという話で盛り上がった」と述懐するのが、今回の映画を手掛けたスタジオ、イルミネーションのクリス・メレダンドリさんだ。モノづくりに対する優先順位などが似ていると感じたとのことだが、一つ相通じたのは、この「表彰ではなくお客さんに楽しんでもらうことがすべて」という姿勢ではないだろうか。

イルミネーションは、『ミニオン』シリーズのヒットで有名なアニメスタジオ。初の長編映画は、2010年の『怪盗グルーの月泥棒』。それ以降、怪盗グルーシリーズ、ミニオンシリーズ、『ペット』『シング』シリーズなどを精力的に発表してきた。賞レースとも無縁ではなく、『怪盗グルーのミニオン危機一発』がアカデミー賞の長編アニメ映画賞や歌曲賞にノミネートしたり、『SING/シング』がゴールデングローブ賞のアニメ映画賞・主題歌賞を受賞したりはしている。
だが、例えばウォルト・ディズニーやドリームワークスといった先輩にあたる他のスタジオに比べて、圧倒的に受賞歴が少ない。なのに、『ミニオンズ』をはじめとするキャラクターは、世界中で大ヒットしている。世界のアニメーション映画興行収入、第1位と第2位は、ディズニーの『アナと雪の女王』シリーズ2作だが、『ミニオンズ』は第4位にランクイン(11億ドル以上)。ディズニーの『トイ・ストーリー』シリーズに勝っている。
日本でもミニオンの人気はすさまじい。USJにはミニオン・パークが2017年に作られ、いつも家族連れやカップルでにぎわっているし、ちまたにはミニオンのグッズがあふれかえっている。

こうした、賞レースではさほど評価されなくても人気は高い、という存在は、時折映画業界でも見かけられる。例えば角川映画。『犬神家の一族』(1976年)、『戦国自衛隊』(1979年)、『セーラー服と機関銃』(1981年)、『時をかける少女』(1983年)など大ヒット作を生み出してきたが、しばらくの間、映画評論家からは無視されてきた歴史があった。
さらにそれより昔だと、嵐寛寿郎などもいる。「アラカン」の名で親しまれた時代劇スターで、「鞍馬天狗」などで一世を風靡するも、評論家には「庶民のスター」と批判された。だがアラカンは「ゲイジュツ、関係おまへんおや」と一笑。「そらまあ、ベスト・テンやら賞をとる俳優さんがいて結構、ワテらのように娯楽専一、お客を喜ばせることに徹する役者もおらな、カツドウシャシンは成り立っていきまへん」(竹中労著『鞍馬天狗のおじさんは』より)とうそぶいていた。
宮本さんやイルミネーションにも、この姿勢が感じられる。聞けば、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はアメリカの映画評論家の中では、すこぶるスコアが低いという。だが一方で観客たちの満足度は高く、大ヒット中だ。それは、宮本さんとイルミネーションの親和性が高かったからこそなしえた快挙だろう。


クリス・メレダンドリ氏
© 2023 Nintendo and Universal Studios
© OKUNO KAZUHIKO

マリオとミニオンが生む「世代を超えた」コミュニケーション

では作品としてのマリオとミニオンに通じる要素は、どのようなものがあるか。
大きなところでは、「セリフがなくても伝わる」というコミュニケーションの強さが挙げられる。

「言語以外で行うコミュニケーション方法」のことを、「ノンバーバルコミュニケーション」と呼ぶが、マリオとミニオンはまさにそれだ。マリオたちは、ゲームアクション中は簡単な感嘆詞ぐらいしかしゃべらず、それ以外は身振り手振りで感情を表す(あとは吹き出しでセリフを表現する)。一方でミニオンたちは、独自の「ミニオン語」を勢いよく話すだけで、聞き取れる単語が少ないほどだ(「バナーナー」などぐらいか)。だからこそこの両者は、日本やアメリカの枠を飛び出して、インターナショナルなヒットが可能になった。
他には、例えば「ひつじのショーン」などで知られるイギリスのアードマン・アニメーションズなども、こういった作風が多い。
特に小さい子どもたちは、こうしたノンバーバルコミュニケーションを、大人が時に驚くほど鋭敏に察し、理解し、楽しむ。そこに細かいセリフの妙や、緻密なストーリー展開は必要とされない。観て楽しめるかがすべてなのだ。

個人的な体験になるが、昨年、大阪の天王寺公園で、サイレント映画のイベントを行ったことがある。1900年代初頭の白黒の短編映画をピアノ伴奏付きで、野外で楽しんでもらう、というイベントだったが、その時多くの家族連れが訪れ、中でも子どもたちがサイレント映画のコメディアンの動きに夢中になっていたのがとても印象的だった。たとえば、チャップリンに並ぶ喜劇王のバスター・キートンという人物は、無表情を崩さないままますごい運動神経で面白いアクションをするコメディスターだが、彼が動いたり跳ねたり走ったりするたびに、子どもたちは夢中で喝采を送った。セリフはほとんどない(時折字幕が入るだけ)が、それでも、いやそれだからこそ子どもたちには伝わることが多いのだ。
今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観たとき、子どもたちのそんな熱狂を思い出した。マリオという存在を、ミニオンの会社が手掛ける。セリフがなくても子どもたちを楽しませることができる存在が、スクリーンを所狭しと暴れまわる。それは大人以上に、子どもたちの感情を揺さぶるはずで、きっと大切な映画館体験になるだろう。


© 2023 Nintendo and Universal Studios

それは、宮本さんが目指したところでもある。
「リビングで家族で揃ってみんなが楽しい時間を過ごしたい、劇場に来て1時間半みんなが楽しい時間を過ごしたっていうのを作ろうってなりました」
宮本さんは、今回4月18日に開催されたジャパンプレミアイベントで、こう語っていた。これはもともとの任天堂のゲームデザインの思考にもつながる話だ。
例えば、ニンテンドーDSで大人気となったゲーム「脳を鍛える大人のDSトレーニング(脳トレ)」。WiiのWii FitやWii Sports、Nintendo Switchのおすそ分けシステム。これらは全部、老若男女が同じゲームで楽しめるように、という方針からだ。Wii Uのゲームパッドというシステムも、リビングでゲームを中心にみんなで楽しんでほしい、という発想からだったという。
「Better Together(一緒は、より良い)」。これは、2012年6月の世界的なゲーム展示会「E3」で任天堂が掲げたコンセプトだ。「任天堂は、部屋の中にいる複数の人をつないで笑顔になってもらいたいということに長年取り組んできた」と、当時の社長・岩田聡さんは述べた。
今回の映画でも、きっとその姿勢は変わらないのだろう。

宮本さんは、前述の鈴木敏夫さんのラジオで、こうも述べている。
「マリオの頃からずっと考えているのは『ゲームをきっかけにしたコミュニケーション』。やり方は変わってきているけど、20年前から考えていることは変わっていないんですよ」


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© OKUNO KAZUHIKO

マリオならではの楽曲と「イースターエッグ」

今回の映画を観て思った一つが、「耳が幸せ」ということだ。たとえばエンドロールもぜひ席を立たずにいてほしい本作だが(ネタバレになるので詳細は避ける)、エンドロール自体、たくさんのマリオをモチーフにした楽曲が流れ、聴いているだけで本編やゲームを反芻して楽しくなってくるようになっている。

作曲家はブライアン・タイラーさん。『ワイルド・スピード』シリーズや『エクスペンダブルズ』シリーズ、マーベル映画作品などを手掛けているベテランだ。今回は、もともとのマリオのゲーム音楽から引用が多く行われている。マリオのゲーム楽曲の生みの親は近藤浩治さんという作曲家だが(ゼルダシリーズなども近藤さんの手によるもの)、近藤さんの楽曲のエッセンスを取り入れつつ、映画劇伴に落とし込む、ということをやってのけた。
映画の本編では、「スーパーマリオブラザーズ」だけでなく、以降のマリオシリーズや「ドンキーコング」、「マリオカート」のイメージのシーンも出てくるが、それに合わせた劇伴を臨場感たっぷりに聴かせることで、ファンとしてはまさにそのゲームのプレイ体験がよみがえってくる仕様になっている。
さらにファンの心を高めるのは、サウンドエフェクトの使い方だ。マリオ特有のジャンプ音や落下音、土管に潜った音、キノコでパワーアップする音、ファイアボールを撃つ音、コインの音などが楽曲の中にちりばめられているのだ。

このBGMを聴いて思い出したのは、星野源さんが2021年にリリースした「創造」という楽曲。「スーパーマリオブラザーズ」の35周年テーマソングとして制作された曲で、星野さんが「マリオや任天堂のモノづくりへのリスペクトを詰め込んだ」と語るとおり、楽曲のいたるところに、マリオや任天堂ゲーム機の効果音を用いていた。ゲームキューブやゲームボーイの起動音、ドンキーコングのミスの音、そしてスーパーマリオブラザーズのさまざまな音。星野さんのこだわりはそれだけで終わらず、ファミリーコンピュータのコントローラIIに搭載されているマイクで録音するという手法もとるなど、星野さんの「任天堂愛」があふれていた。

そしてそれは、歌詞にも及ぶ。「非常識な提案」「Yellow Magic」「配られた花 手札を握り」「枯枝咲いた場所から~水平に見た考案」「独を創り出そうぜ」……任天堂ファンならニヤリとする、任天堂を表す様々な言葉を歌詞に盛り込んでいることも話題となった。(詳しい説明は今回は省く。興味ある方はぜひ調べてください)

こうした「作品の中に隠されたメッセージやユーモア」を「イースターエッグ」と呼ぶ。キリスト教の復活祭でイースターエッグを隠す慣習にちなんで呼ばれており、昨今の作品では、SNSでのファンの考察談義を盛り上げやすいことからも、作品作りに活用されることが多くなっている。そして一方で「原作ファンが、映画化のスタッフたちの原作愛を推しはかる」ための指標ともなる。

本作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも、このイースターエッグは、無数とも呼べるほどに仕込まれている。正直、一度の鑑賞では全部は把握しきれなかったが、ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」やその後のシリーズ、「マリオカート」「ドンキーコング」「ルイージマンション」などを遊んでいたファンからすれば、ずっと「おお、この背景は」「このセリフは」「この音は」と発見と興奮がずっと続くのだ。
だがもちろん、もともとのゲームを知らなくても十分楽しめるように作られているのも本作の魅力だ。とくにマリオゲームは、世代や環境によって遊んだ作品も異なる。「スーパーマリオブラザーズ」は遊んでいても最近のマリオは知らない、とか、スマッシュブラザーズやマリオカートでマリオを遊んだことはあるけど、とか、USJのアトラクションはよく行く、とか、人によってマリオとの距離感は異なる。今作のイースターエッグは、そんなどの客層にもしっかりリーチするし、それ以外を分からなくても全く問題はない。
だが一つだけ断言できることがある。それは「観た後、絶対に何かマリオのゲームを遊んでみたくなる」ということだ。(実際筆者は、鑑賞後に「スーパーマリオブラザーズ」の初代と「ルイージマンション」をプレイしてみたくなった)


© 2023 Nintendo and Universal Studios

日本公開後、本作は日本国内でもきっと大きなヒットとなるだろう。そしてきっと、マリオのゲームをプレイしたくなる人も増えるだろう。いまNintendo Switchでは、有料サービス「Nintendo Switch Online」に加入すれば「スーパーマリオブラザーズ」シリーズやその他初期のマリオゲームも遊び放題だし、現行でも「マリオカート8 デラックス」や「スーパーマリオ オデッセイ」「スーパーマリオメーカー 2」「New スーパーマリオブラザーズ U デラックス」「スーパーマリオ 3Dワールド + フューリーワールド」「ルイージマンション3」などが販売されている。(映画公開と同日の本日4月28日からは、「Nintendo Switch ゴールデンウィークセール」と題した割引も行われている)

「ゴールデンウィーク」という単語は、もともと映画業界から生まれた言葉だ。かつてあった映画会社・大映が、この時期に大きな売り上げを上げたことで、正月や夏休み以外の大型集客期間として命名した。
今年のゴールデンウィークは、この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を中心として、まさに大きな映画動員を生み出すだろう。そしてみんなでマリオの世界を堪能しながら、宮本さんの目指した「ゲームを中心としたコミュニケーション」を楽しんでほしい。「あのシーンがよかった」「あの部分はこのゲームからの引用」「あれはワクワクした」そんな家族や友人同士のコミュニケーションが活発になることが、宮本さんや任天堂が目指していることだ。

映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、2023年4月28日(金) TOHOシネマズ梅田 他 全国ロードショー中。

文:森田和幸(キネプレ)
詳細情報
■日程
4月28日(金) ~

■サイト
映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』公式サイト