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2022年10月17日(月)掲載
「子供のころ、よく来てました!」塚口サンサン劇場の トークイベントに映画『こちらあみ子』の森井勇佑監督が登壇!
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ちょっと風変わりな女の子「あみ子」が、正直さゆえに家族や友達の人生を翻弄していく様子を描いた映画『こちらあみ子』。今年の日本映画において重要な1本である今作を撮った森井勇佑監督が、2022年9月11日に、塚口サンサン劇場のトークイベントに登壇した。聞き手は塚口サンサン劇場の戸村文彦さん。「子供のころよく来ていた」という懐かしの劇場で語られた『こちらあみ子』への思いとは?監督のインタビューと合わせてお届けします。

(本文中に、少し作品の中身に触れる部分があります、ご了承ください)


会場で待つ約40名の参加者に大きな拍手で迎えられた森井監督。「こんなにたくさんの方に来ていただいてうれしいです」と会場を見渡すと、さらに大きな拍手が。作品を観て参加した人が多かったため、「深いところまで話していただいても大丈夫だと思います」と戸村さんが促すと、「ネタバレ解禁で」と監督。中身の濃いトークが開始された。


……関西出身の森井監督、塚口サンサン劇場の思い出は?
森井監督は、塚口サンサン劇場がある尼崎市の隣、西宮市の出身だ。「西宮の門戸厄神(もんどやくじん)で生まれたものですから、小学校低学年ごろにこの劇場にはよく来ていました」と監督。戸村さんも「当館は今年で69年目ですから」と答えると「平成ゴジラシリーズを毎年やってらしたと思うんですが。ビオランテやキングギドラを観に来てましたね。不思議な気分です。あまり雰囲気は変わっていない感じがしますし、ぜひまた来たいと思っていたので、今日はうれしいです」と喜びを伝えた。

……映画『こちらあみ子』を初監督作品として映画にしたきっかけは?
この作品は、芥川賞受賞作家・今村夏子のデビュー作を映画化したもの。「この作品を映画化しようとした経緯は?」と言う戸村さんの問いに、「僕がこの小説を初めて読んだ時から、自分の中にずっとあみ子が住み着いているような感覚がしばらくあって。当時は、28歳ごろだったかな。今まで読んできた小説の中で、一番心をつかまれたんだと思います」と監督。「どの部分が?」と問う戸村さんに対し「あみ子がどういう風に世界を見てるのかという点が、自分と非常にリンクするなと思ったんです。見えていない部分と、一方ですごく鮮明に見え過ぎるものとが自分の中にもある。その感覚にしたがっていけば、これは映画にできる、という自信がありました」と答えた。

戸村さんは「原作物を映画化する時、脚本化するのは難しいのでしょうか」と質問を投げかけた。すると監督は「この小説は100ページぐらいで、分量的には短い。だから2時間くらいに丸ごと収まるだろうと思いました。小説から映画になる時って、映画の文脈みたいなものに変換していかなけばならないと思うのですが、そこには気を付けました。例えば、お父さんとお兄ちゃんがお母さんを病院に連れていくために玄関までかかえていくとか、原作にないシーンを少しずつ挟んでいます」と返答。

また、台本になかった部分をいれこんで、映画のリズムに仕立てていく作業を行ったという監督。それを叶えるために、自分で画用紙に絵を描いて、撮りたい映像を決めてから現場に入りながらも、想定していなかった瞬間も取り入れる余地を残して撮影したそうだ。

なかでも代表的なのは、あみ子が側転をしながら道を進んでいく場面と、冒頭でみかんを投げる場面。「特にみかんを投げるシーンは台本にはなくて、僕も想定していなかったんですが、朝現場に行って急きょあんな風にしてほしいとみんなにお願いして。ミカンが最後、上から落ちてこないように仕掛けを作らないといけなかったのですが、みんな快く応えてくれました」。

……撮りたい絵は、画用紙に描いて。監督だけのイメージボード
その言葉を受け、「絵コンテではなく画用紙とおっしゃったのがおもしろいですね。実際に画用紙に絵を描いて?」と戸村さん。「そうですね。本当の絵コンテはカメラ位置や画角が同期している絵としてプロの人とか絵が上手な人が描くのですが、僕は、雰囲気をつかむために、画用紙いっぱいに描きました。それをパラパラめくりながら、これでいいかな?と自分のなかで確認するために使ってましたね」と監督。戸村さんも「なるほど、この作品は、絵で語る印象深い場面が多いなとおもっていたのですが、監督のイメージをいったん絵にして、それを自分だけが持っておいて、カメラマンには言葉で伝えて作っていったんですね」と納得。

……あみ子を演じた、大沢一菜さん。最初の印象は?
続いて話題は、あみ子を演じた大沢一菜(おおさわ かな)さんへと移った。オーディションの人数は、総勢330人。その中から選ばれた一菜さんの印象は?

「このポスターのままですね。こういう顔をしてたんですよ」と監督。「僕、この写真が大好きなんです。この目線、どこを見ているんだろうと気になる。最初に出会った時からどこか1点を見つめていて、この子すごく気になると思わせる存在でしたね。でも、演技経験はまったく初なんです」。


……演技経験のない一菜さんをあみ子にしたもの、それは「めちゃくちゃ仲良くなること」
戸村さんは「それでは、あの自由奔放な演技はどうやって?」と監督へ質問。すると「現場ではほとんど僕、なにも言っていないんです。動きだけは伝えてるんですが、何秒数えてこのセリフを言って、というようなことしか言ってなくて」と答えた。そして「この芝居を引き出すために、僕らが何かしたことがあったとすれば、めちゃくちゃ仲良くなることじゃないですかね(笑)。一菜はスタッフみんなと仲良くなってくれたので、カメラの前でも無防備でいてもらうことができたんだと思います」と答えた。

そして、それをするために「撮影の10日前から広島に来てもらい、一緒にご飯を食べて朝昼晩を共に過ごした」と監督は続けた。
「彼女の自由な行動に対して僕らは一切怒らなかった。外から見たら、現場はめちゃくちゃに見えるとは思うんですけど。彼女が遊んでいるだけみたいな。マイクを付けさせてくれないとか」と笑う。

「お昼寝タイムもあったそうですね」と戸村さんが言うと「そうなんです。絶対お昼過ぎるとねむくなっちゃうんで。じゃあみんなで寝よう!と。スタッフも誰一人この状況を嫌だと思わない人がそろった。それも奇跡的だった思います」と監督。それはキャストも同じで「お父さん役の井浦 新さんや、お母さん役の尾野真千子さんも率先してやってくれました」。「本当に制作スタッフ、キャスト共にすばらしい座組だったんですね」と戸村さんも共感。

……「映画が〝生き物″みたいに存在してくれたらうれしい。観る人それぞれに好きなところを見つけてほしいと思う」
「この作品は、観る位置によっていろいろな見え方、感じ方があると思うんです。おとうさんの立場で観るか、お母さんの立場で観るか、同級生の目で観るか。いろいろな経験がこの映画を観る上で重要なところであると思うんです。監督は原作を読んだとき、どの目線だったんですか?」と戸村さん。監督は「本を読んだ時はあみ子でした」と答えた。

「初監督作品が全国で公開されていますが、いろいろな感想が監督のところに届いていると思います。実際に上映されてみて、いかがですか?」という問いに、「うれしいですね。とてもいろんな感想を抱いてもらえる映画になったのだなと感じています。映画を見て、心を動かしてくれた方もいますし、戸惑われている方もいます。僕が目指したのは映画が一本の生き物のようになってくれることです。生き物であるから、それはいろんな見え方ができるのだと思います。ひとつの絶対的な価値というものはないので。見た人それぞれが、この映画を通して登場人物たちとどういう出会い方をしたのか、それぞれの体験になってくれたら嬉しいです」と監督は返答した。

その後、参加者からの質問コーナーへ。
参加者の1人は「観る側に、あみ子的なものがあるかどうか、そこが分かれ道だと思う。私にとっては宝物のような映画です」と述べた。それを受けた監督は「確かにどの人の記憶の中にも、教室にあみ子はいると思うんです。もしかしてあみ子が子供のときの自分かもしれません。そして自分はどこにいたのか、自分はあみ子と似ていたのか、そうではないのか、どうあみ子に接していたのかによって皆さんの意見がずいぶん違うと感じていました。ありがとうございました」と返答。


た、音楽を青葉市子さんに依頼した経緯について質問が飛ぶと、「実は、僕が撮影に入る1年くらい前に脚本も書き終えて、ロケ地候補の広島を旅していたんです。その直前に、アップルミュージックから青葉さんの音楽をオススメされて、旅の間もずっと青葉さんの曲を聞いていると、風景と音楽が一つになったような気がして。青葉さんの音楽じゃなかったらこの映画は成立しない!と思いました。キャストも決まっていないから気が早いと言われながらも、ずっとかたくなに『音楽は青葉さんで!』と言い続けましたね」。

さらに、ラストの虫が飛んでくる場面について、あみ子のあまりに自然な演技に「あれはアドリブですか?」と質問が。監督は「そうです。夜なのに照明を焚いて撮影したので、家に虫が入ってきちゃったんです。その時の一菜の生の反応がよくて、それを使いました。あみ子に虫たちがなにかメッセージを発してきている、そんな風にも見えて。何か言いに来ているんじゃないかと思って、あのテイクを使いました」。

最後に、塚口サンサン劇場のスタッフからの「中学に上がってからの制服があみ子には大きすぎるのが気になって」という質問にも答えた監督。「それは狙っていたところで、小さい体に大きな制服というのは、着せられている感覚が生まれる社会というか、みんな同じものを着せられた時の違和感を絵として表現するにはどうしたら、という思いからなんです。全くなじんでいない感覚を表現したかったので、あえてぶかぶかにしました」。

監督は最後に「この映画を作って、こんな風に皆さんとお話ができたことが、とっても幸せです。そして、映画にこうやっていろいろな話ができる余白を残せたのだなということ。それは、とても豊かなことだと思う。今日は大変楽しかったです」と締めくくった。

こうしてトークイベントは終わるかと思いきや、「みなさん、ぜひこのサインを写真に撮ってください!」と戸村さん。何かと思えば、それは『こちらあみ子』のポスターに書かれた監督のサインを指していた。


よく見ると「塚口サンサン劇塚さま」と書かれている。「塚口の『塚』ってこの字であってるかな?と思いながら書いたら、こう書いちゃった」と笑いながら、指をさしつつ説明する監督に対し、「監督の人柄がよく出ているので、よく見てくださいね」と戸村さん。最後まで和やかなムードで終了したトークイベントとなった。


その後も、参加者からのサインに応じる監督。たくさんの感想が直接監督のもとに届けられた。


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【終了後、監督インタビュー】
子供時代に通った塚口サンサン劇場。
助監督時代には参加した作品を観に来たことも。


■「塚口サンサン劇場にはずっと挨拶に来たかったんです」
トークイベント終了後、森井監督にインタビューを行った。

子供時代にこの劇場に通ったという監督。「ゴジラは毎年見に来てましたね。ほか、アニメやドラえもんもそう。懐かしいです」と言いながらも、実は観客として来館したこともあるそうだ。

「大森立嗣監督の『光』という作品に助監督で参加した時、帰省にあわせて劇場にポスターを配りに来たことがありました。その時、この劇場で『光』を観て帰ったことを覚えています」。

■「原作は、僕が対話しやすい存在だった」
監督はトークイベントのなかで「あみ子がどういう風に世界を見てるのかという点が、自分と非常にリンクすると思った」と語ったが、原作小説は「僕自身、対話しやすい存在だった」とも。「文体や世界の感触がすごく入ってくる。僕の知っていると思えることがたくさん書かれていたんです。だから、これを映画化するときは自然な感覚でできました。教室の中でどの位置にいるかによって感じ方が違うと思うのですが、僕はどっちかというとあみ子寄りだったと思います」。

■一菜さんを選んだ理由とは?
オーディションの時、あのポスターのままだった、という話が出てきたが「劇中のあみ子とは違い、ちょっと緊張してましたね。でも、ことごとく、ここで何かしなきゃという思いに駆られていない感じがとても良かったんです。いい所を見せなきゃとか、大人にお伺いを立てるような素振りもない。それがよかったですね」。

■自由に動く一菜さんをカメラに収めるための工夫は?
「セリフが芝居じみた時がたまにあったんですが、常に言っていたのは『一菜のままで言って』ということ。例えば、書道教室でふすま越しに、憧れの同級生・のり君(大関悠士)を見ているシーン。実際、目線の先にのり君が立っているんですが、その時すでに2人はすごく仲良くなっていて。のぞき見するほど大好きな存在なのに、白けた空気になっちゃって(笑)。でも、好きという感情を言葉で説明しても無理やり作ることは難しいので、一菜の大好きな犬のぬいぐるみ『わんころべぇ』をスタッフが持って楽しく動かして。すると『興味がある!』という目になったんです。〝そんな風に見える表情″をどう作るか、もすごく取り入れました」。

■「一菜はカメラの前で嘘をつかない。そのまんまでいられる。それはすごい才能」
現場では「突発的に起きたこともどんどん撮影していき、ひとつの答えがあるから、そこに向かおう、という空気にはスタッフ全員がしなかった」と監督。「彼女の芝居がスクリーンを通して真実味を帯びているのは、彼女が一切嘘をつかないからだと思います。それはすごい才能。眠ければあくびをするし、その後の涙目をある場面にも使っています」。

■「一菜は子役と言う存在ではないんです。僕らも子ども扱いしない」
「一菜に対しては、もう子役と言う存在ではないんです。僕らは、1人の非常に自由な人として接していましたし、スタッフがみんな子ども扱いしなかったこともえらいと思いました」と言う。さらに「僕は、一菜を〝その瞬間を生きている謎の生物″として見ています。年齢的な区別をしていないし、だから友達なんですけどね。映画『こちらあみ子』もそういう目線でやっているつもりです」と語った。

■「たくさん寄せられる感想がうれしくて!劇場でもぜひ話しかけて」
今日のトークイベントでも、監督に感想を伝える人が多かったが、全国各地の舞台挨拶でもたくさんの感想が寄せられるそうだ。「直接感想を伝えに来てくださってほんとにうれしいです。勇気を振り絞って話しかけてくれる中学生や小学生もいて、すごく楽しいんですよ。奇跡的なことがたくさん繋がって出来た映画です。これからも舞台挨拶に出かける機会がありますので、ぜひ話かけてください」と締めくくった。

劇場を去る前に、サンサン劇場1階の扉にサインを行った。こちらもぜひチェックを。


取材・文:田村のりこ
詳細情報
■サイト
『こちらあみ子』公式サイト
塚口サンサン劇場
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