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「三代目は、めがね」第6回 明るくなるまで待って(横田陽子)

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年に何回かSNS上で話題になる「エンドロール最後まで見るのか見ないのか問題」ですが、皆さんはどちら派ですか?私はトイレに行きたいかどうかにもよりますが、ほとんどの場合、最後まで見る派です。映画館で働く者の意見としても、エンドロール、最後まで見た方がいいですよ。なぜなら…。

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シネマートで働き始めてすぐの頃のことです。夜、最終回が始まって何分も経たない時に電話が鳴りました。女性のお客様からで、「落し物をした」と言われます。
「今日、映画見に行ったんやけど、会社のロッカーの鍵を落としたんです。ひこにゃんのキーホルダーが付いてんねん。場所はスクリーン1の一番後ろの列の…」と場所もはっきり言われました。私も「わかりました。では、今は上映中なので、映画が終わったら、中に入って確認して折り返しお電話しますね」と言って電話を切りました。
最終回が終わって、私は場内に入ってお客様に言われた席の周辺を探したのですが、ひこにゃんの付いたカギは見つかりません。お客様に電話して、その旨お伝えすると、「そんなことあるかいな。私、会社出てからバッグを開けたのは、シネマートだけやし、絶対その席のとこに落ちてんねん。シネマート出てからも家に着くまでバッグ開けてへんし、落とすとしたら絶対にそこしかないねん。ただ、エンドロールのまだ暗い間に出たから、そん時に落としたと思うねん」と、はっきりと言われるのです。しかも「明後日、カギ無かったら、制服に着替えられへんからめっちゃ困るんよ。何とかしてくれへんかなあ。ひこにゃんのキーホルダーも会社の人のお土産やからな、具合悪いやろ?」と言われるではありませんか。
なので、私も「わかりました。私、明日は早番でオープン前に場内を掃除するので、その時もう一度探してみて、お電話しますね」というと、念を押されるように「絶対、そこにあんねん。明日、取りに行くからしっかり探してな!」と言われて電話を切られました。
翌朝、もう一度念入りに探してみました。もしかして、お客様が座っていた席を勘違いしているのかもしれないと思い、全部の椅子の間や下も見てまわり、万が一ということを考えて、もう一つのスクリーンの座席の下も確認しました。でも、ひこにゃん付きのカギは出てきませんでした。ビビりながら電話して無かったことを伝えると、案の定、ちょっと怒った口調で「無いはずないねん。絶対、そこでしかバッグ開けてないんやから。わかりました。もういいです」と切られてしまいました。
しょんぼりしながら一日過ごし、次の日です。朝、オープンする前に電話が鳴って出てみると、例のお客様からでした。
「あ、昨日のお姉さんやね。ほんまに申し訳ない…。出勤したら、ロッカーにカギささったままやったわ〜。ごめんなさい」と言われるではないですか。でも、あまりにすまなさそうな口調に思わず私も笑ってしまって「よかったですね〜」と言うと、「ほんまにごめんやで。また映画見に行くから許してな」そのお客様は本当にそれから何度も映画を見に来てくれたし、丁寧に謝ってくれました。

こんなことは一度や二度ではないのです。ヒドイ時には一日に何個も落し物があります。その内の半分くらいはエンドロールの途中のまだ暗いうちに出て行って、駅まで行って定期や携帯電話が無いことに気付いて、慌てて戻ってこられたり。
忘れ物をしないためにも、エンドロールは最後まで見るのをオススメします。

執筆:横田陽子
学生時代に神戸の映画館でアルバイト。卒業後は映画と関係の無い仕事を転々とし、
2006年シネマート心斎橋にオープニングスタッフのアルバイトとして入社。
2013年12月より上映予定表の裏に現「ヨーコのこべや」連載。
2015年よりシネ・ヌーヴォ支配人とミニシアター入門編トークイベント「ヨーコ&ノリコのおしゃべりミニシアター」不定期開催。
2016年11月から支配人業務に従事。

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