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「生半可な気持ちでは出来ないなと思った」―『母さんがどんなに僕を嫌いでも』太賀さんインタビュー

実話を元に生まれた映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』が現在公開中。主人公のタイジを演じた太賀さんにお話を伺った。

太賀さん1

漫画家で小説家、エッセイストでもある歌川たいじさんの体験を元に描いた同タイトルのコミックエッセイを、映画『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』や『泣き虫ピエロの結婚式』などを手掛けた御法川修監督が映画化。心に闇を抱えた母親(吉田羊)から受けた暴力や暴言に耐えながらも、心身ともに深く残る傷に蓋をして精一杯生きてきたタイジ(太賀)が、真の友に出会い、彼らに背中を押されながら母の愛をつかみ取るために再び母と向き合っていくスト―リー。

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

さとり世代のサラリーマンから80年代のヤンキーまで、どんな役を演じても自然にそこになじんでしまう実力派俳優の太賀さん。幼いころから母に虐げられて愛を感じることが出来なかった青年の役を、どのような気持ちで演じたのだろう。
「先に脚本をいただいて、そのあと原作を読んだんです。脚本だけを見ると悲しいことの連続で、こんな体験をされてきた歌川さんの人生を僕が演じるということは、生半可な気持ちでは出来ないなと思いました。でも、原作はすごくあたたかくてやさしいタッチなんですよ。悲しみを乗り越える力や、人と人とが寄り添うことが色濃く描かれている。ここに演じる糸口があるなと思いました」。

撮影現場にも足しげく通い、献身的にサポートする歌川さんの姿が印象的だったという太賀さん。物語は母の思い出の味である「まぜごはん」をタイジが作る場面から始まるのだが「実は僕、料理が全然できなくて、歌川さんに料理指導をしてもらいました」と振り返る。手作りのお菓子やスタッフ全員にいきわたるようにと大量のまぜごはんを作ってくれたりと「本当に気遣いの素晴らしい方」と絶賛。しかし、「僕は、歌川さんに、あの時はどんな気持ちでしたか?とあえて聞くことはしなかったんです。話を聞いて知ったような気にはなれないと思った。でもその分、ずっと歌川さんを観察していました。歌川さんが持っている明るさやユーモアは、悲しい出来事を乗り越えていく上で大事な力だったと思いますし、この作品の物語を動かす重要なパワーだとも感じていました」と語る。
 
この作品には、タイジの人生に大きくかかわる2人の女性が登場。1人は、タイジに虐待を繰り返し、挙句の果てに児童保護施設へ放り出してしまう母・光子(吉田羊)。もう1人はタイジを深い愛情で包む実家の工場の従業員「婆ちゃん」(木野花)だ。「あんたなんか生まなきゃよかった」と言い放つ光子のセリフは、愛を乞うタイジにとって人生すべてを否定される衝撃的な言葉でもある。
そんな母と子を演じる吉田さんと太賀さん。撮影現場では「役の関係性もあり、どうコミュニケーションを取ったらいいのかわからなかった」という。「でも、話したい思いはあるし、羊さんがいない時も羊さんのことばかり考えているんですよ。おそらく羊さんもそういう思いでいらっしゃって。そして、本番が始まればバトルが繰り広げられる。罵声を浴びせられるたび、なんでわかってくれないんだ、もっとわかってほしいのに、という思いがどんどんふくれあがるんです。それは良い緊張感であり、とても濃密な時間でした」と振り返る。

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

逆に、木野花さんとの撮影はたった1日のみ。幼少期のタイジ(小山春朋)との共演が中心であった木野さんとは、撮影開始からこの日が初対面で、しかも物語上とても大事な場面の撮影。たったの1日ですべてを表現しなければならなかった。「想像がつかないまま、どっちに転んでもどうにかしなければという思いで現場に挑みました。でも木野さんは本当に素晴らしくて、自分が想像していたよりもはるかに優しくて、あったかい婆ちゃんがそこにいた。木野さんが、僕をすっと『タイジ』にしてくれました」。

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

この作品で描かれるテーマのひとつは、子どもに対する暴力。「母さんがどんなに僕を嫌いでも」というタイトルは、そのあとに続く「それでも僕は母さんが好き」という言葉を連想させる。しかし、重いテーマでありながらどこか明るい光や柔らかな色を感じさせる場面が多いのもまたこの作品の特徴。とくに、土手での母と子のシーンは、まるで水彩画のように光と淡い色に包まれていて、まぶしいほどに美しい。「あそこだから見せられる表情があるはずだ、と思って演じていました。あの土手のシーンでは、今まで張り詰めていた関係を超えて、溶け合っていく二人というイメージが自分の中にありました」と太賀さん。

また、「後半の友達4人で過ごす海辺のシーンで『こんなにうれしかったこと、なかったから』というセリフがありますが、あのシーンこそタイジの喜びが更新される瞬間だと思うんです。そんな瞬間ってなかなかないじゃないですか。そこを意識的に表現したいなと思い、撮影に挑みました」。

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

役者にはそれぞれテーマカラーがあり、衣装合わせの段階で、タイジのテーマカラーは「緑」と決まったそう。「前半は濃い緑のネクタイをしているけれど、物語が進んでいくにつれ、最後には明るい色になっていく」のだという。これは監督の意図でもあったそうで、色の濃淡に心の変化を託した監督の思いもくみ取ることができる。

タイジの人生を光あふれるものに変えてくれた友達の存在も大きい。特に、親友キミツ。スティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』で人気急上昇の森崎ウィンさんが務めた。「彼とは同じ事務所で、もう10年以上切磋琢磨してきた仲。キミツの持つ底抜けの明るさと、根はまじめで繊細という2面性のある難しい役を誰がやるのだろうと思っていたら、森崎ウィン君になったと聞いて、彼だったら絶対にできると思ったんですね。ばちハマりだなと!」うれしそうに教えてくれた。

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

最後に太賀さんは「誰しもが愛される権利を持っています。だからこそ、悲しみを乗り越え、タイジが母と向き合っていく姿に、とても勇気をもらえる作品だと思います。見終わったあと、お母さんのことを思い出してもらいたいですね」と語ってくれた。

映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』は、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほか全国公開中。

映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』予告編

詳細情報
■サイト
映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』公式サイト