塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

連載コーナーはこちら

「映画と短歌と街をゆく」 第4回 エキスポシティ、塚口『シン・ゴジラ』(奈良絵里子)

totop


映画館、後ろで見るか、前から見るか。

岩井俊二監督の名作ドラマ『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』になぞらえてみましたが、皆さん、座席のこだわりはありますか?

私は、窓口でチケットを購入するときは、スタッフの方に「一番観やすい席」をきいて、勧められた席を選ぶことが多いです。たいていは、目線の高さとスクリーンの高さが同じなので、と、中央付近の席を案内されます。
ネット予約をする場合もこれにならって、だいたい中央付近の席を選ぶのですが、慣れていない劇場だと、意外と座席が低い位置にあったり、後ろでも十分近い距離だったりと難しいですね。

さて、冒頭の問いに戻ります。中央ではなく、後ろの方と前寄りと、どちらで観るのがいいのか。私は、2016年の夏に何度も観た『シン・ゴジラ』のことを思い浮かべます。

(C)2016 TOHO CO.,LTD.

まずは、友人Mさんと観た『シン・ゴジラ』。
劇場は、IMAXシアター完備の109シネマズ大阪エキスポシティ。Mさんが「IMAXだからなるべく後ろ側にしてね、一番後ろでもいいくらい!」と言うので、遠くないかなあと思いつつも、一番後ろの席をネット予約しました。

当日、劇場に入って納得。IMAXシアターはスクリーンがすごく大きくて、天井からほとんど床までを覆うような形。座席は普通よりも傾斜がついていて、階段状の斜面に張り付くように並んでいます。
中央付近に席を取っていたら、かなり見上げる形になっていただろうなーと、一番後ろ(一番上という方がニュアンスが近い)の指定席へ座りました。

一番後ろの席というのは、スクリーンを最も俯瞰で見られる位置。総監督、庵野秀明がアニメーターということもあってか、シーンの一つ一つが一枚の絵画のように完成された構図で作られていて、画面の端まで見逃せない映画です。後ろで観て、本当に正解。

終映後、大阪モノレールに乗って帰っていると、万博公園の太陽の塔が見えてきました。「大阪にゴジラが来たら、太陽の塔と対決させたいな」なんて話を交えながら、Mさんが『シン・ゴジラ』評をはじめます。感想から評にしていく作業というのは、それこそものごとを俯瞰で捉えていくことだから、評を好むMさんらしい座席の選び方だなーと思いました。

次は、当時の恋人Aくんと観た『シン・ゴジラ』。
塚口サンサン劇場にて重低音ウーハー上映が開催されると聞きつけて、お互いに数回目の鑑賞を決めました。
さて、Aくんが座席予約をしてくれますが「俺は今回まん前の方で観たい。もう(画面)全部見れなくていいでしょ」とスイスイ予約を進めてしまいます。すっかり中央派から後ろ派になっていた私は不満もありましたが、そのとき4、5回目の鑑賞だったので、たまにはいいかと了解しました。

取った席は、前から4番目の画面中央寄りの席。少し首を上げなければいけないけど、しんどいほどではない。でも、スクリーンの真ん中を見ていると、端は見切れてしまいます。諦め半分で映画が始まりました。

短期間に何度も見ている作品なので、冒頭は「そうそう」と確認していくような鑑賞でしたが、ゴジラが出てきたあたりから、気分が変わってきました。だってなんか、すぐそこまで、ゴジラが来る! 避難する人が押し寄せる! ビームが飛ぶ!
とにかく目の前いっぱいが映画になって、ほかに何にも見えなくなる感じ。アニメに没頭した子供の頃の感覚を思い出しました。

ということで、後ろからでも、前からでも、それぞれの良さがあるというオチなのですが、臨場感がほしいか、俯瞰したいか、作品の内容や気分によって座席の位置を決めるのも良さそうです。

短歌にも同じようなところがあって、同じエピソードを詠んだ作品でも、どの視点から描くかによって、味わいが変わってきます。短歌ができたあと、座席を変えるような気持ちで推敲してみると、しっくりくる視点が見つかるかもしれませんね。

【今回の一首】
スクリーン越しにゴジラを見るような遠さなのかも 母と私は

執筆:奈良絵里子
1986年生まれ。大阪在住。中学校の国語の授業がきっかけで短歌を趣味にする。枡野浩一短歌塾四期生。
同人誌『めためたドロップス』ほか短歌とミニエッセイの寄稿など。コワーキングスペース往来にて月1の講座「もしも短歌がつくれたら」スタッフ。伊丹市立図書館ことば蔵にて「そうだ、歌会始行こう!」など、短歌初心者向けの小さな催しをたまに企画する。

totop