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2018年07月11日(水)
「三代目は、めがね」第4回 泣く女(横田陽子)


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私は時々、仕事の合間に上映中の劇場にこっそり入ってお客様と一緒に映画を見ている。誰かと一緒に映画を見るのはとても楽しい体験だ。一生のうちでこの二時間だけしか同じ空間に居合わせないかもしれない人たちと、同じ場面で笑ったり、泣いたり。年齢も性別も境遇も違う人々と、この一瞬だけ、時間と空間を共にする。なんて素敵なことだろう。でも、全く逆の時にも、私は映画館に行くことがある。

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自慢ではないが、私は、失恋人間だ。もし、失恋選手権があれば、西の桜木花道と称されるのではないだろうか。恋多き人間ではない、むしろなかなか好きな人が現れないタイプ。でも、一度好きになると気持ちが冷めにくく、長い間その人のことを思い続けることができる。失恋した後も、相手のことを嫌いになることができず、むしろ自己嫌悪の塊となり、誰にも相談できず、じわじわとしか悲しみを癒すことができない厄介なタイプなのだ。
シネマートで働く前の職場で私は大きな失恋をした。フラれた後、一年くらいかけてじわじわと自分を癒していたのだが、その間、私をフった人は新しい出逢いがあり、どうやらお付き合いしているらしいという噂を聞いたりしていた。職場内恋愛の悪いところは、上手くいかなかった場合ツライという点。ある日、仕事が終わって、駅に向かう途中、横断歩道で信号待ちをしていた時に、見てしまった。彼が、 職場で一二を争うくらい若くてカワイイ女性社員と手をつないで横断歩道の反対側に立っていた。信号が青になり、私たちは無言のまま、すれ違った。噂を聞くのと、実際見るのは大違いだった。私はまっすぐ家には帰れなかった。幸い近くに映画館があった。私はその映画館に駆け込み、タイミングよく上映していた映画を見ながら、泣いた。さして悲しい映画でもなかったが、涙は止まることはなく、後から思えば空いてて良かった。
それからも何度か映画館で泣いた。もちろん泣かされる映画を見ての時もあれば、ひとりで泣きたい時にも。自分の部屋で泣けよ…と思われるかもしれない。でも、家で泣けば家族が心配するし、涙を拭いても気付かれることがある。映画館の暗闇の中で、全くのひとりぼっちではなく、ひっそりと涙を流して、気持ちを落ち着かせたい時があるのだ。父が亡くなった後も、最近起きたツライことに気持ちがついていかなくなった時も、そうした。

私のような使い方をしている人は少ないかもしれない。でも、どうしてもまっすぐ家に帰れない気持ちの時は、映画館があなたを待っていてくれる。涙を流させてくれたり、笑わせて元気にしてくれたりする。できれば、空いていた方が周りに迷惑がかからなくて済むかもしれないが、ツライ時は、映画館に映画を見に来るっていう選択肢もあるって、覚えててほしい。

執筆:横田陽子
学生時代に神戸の映画館でアルバイト。卒業後は映画と関係の無い仕事を転々とし、
2006年シネマート心斎橋にオープニングスタッフのアルバイトとして入社。
2013年12月より上映予定表の裏に現「ヨーコのこべや」連載。
2015年よりシネ・ヌーヴォ支配人とミニシアター入門編トークイベント「ヨーコ&ノリコのおしゃべりミニシアター」不定期開催。
2016年11月から支配人業務に従事。


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