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2018年06月27日(水)
「チン・チン・チネマ」第4回 恋のロケット花火(有北雅彦)


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僕たち世代の映画体験を語るには、やはりジブリを避けては通れない。僕がはじめて触れたジブリ作品は中1の時、金曜ロードショーでやっていた「魔女の宅急便」だった。「おもひでぽろぽろ」の公開に合わせて放送していたやつだ。その後は、「紅の豚」「耳をすませば」といったあたりを映画館に観に行った。「ラピュタ」や「トトロ」といった王道に触れずにはじまったためか、「好きなジブリ作品は?」という話題において、僕の答えが、ちょっと人と違ってしまっているのは否めない。

なんせ、僕のベスト・ジブリ作品は「平成狸合戦ぽんぽこ」だ。

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多摩ニュータウン開発に伴う、人間とタヌキの争いをコミカルに描く叙事詩。映画にそっと添えられた「おもろうてやがて悲しきタヌキかな」という言葉が胸を打つ、高畑勲監督の名作だ。

ストーリーの荒唐無稽さは、落語に通じるものがあり、声優には落語家さんが何人も名を連ねている。あとなんといっても、登場人物がアホばっかりなのがいい。マジメな顔でアホなことをやらかす、これはコメディーの基本だ。たとえば、こんなシーンがある。

「やるなと言われてるのに交尾する」

人間との戦いに備えて、色恋にうつつを抜かしている場合ではない、ということで、タヌキたちにはアイドルグループさながらの恋愛禁止条例が申し渡される。しかしそこは頭脳が中学生レベルのタヌキたち。本能に逆らえず、おおいに子作りにはげんでしまうのだ。ご家族が足を運ぶ夏休みアニメでなかなかの展開だ。本能に忠実、これはアホの第一条件だ。こういうシーンもある。

「助けを呼びに行ったのに、女ができて帰ってこない」

多摩のタヌキだけでは力不足だということで、タヌキの聖地・四国に援軍を求めようということになる。(この使者を選ぶために開催されたのがジャンケン大会なのもつっこみポイントだが、いったんおいといて)2人の精鋭タヌキが熾烈なジャンケン大会を勝ち抜き、使者として派遣される。だがそのうちの1人が、四国のメスタヌキとねんごろになり、あまつさえ子どもまで作って帰ってこないのだ。多摩のタヌキたちは彼と援軍を心待ちにしているが、いつになっても帰ってこない。自分のやりたいことをやる、この一点において、アホは他の追随を許さない。また、こういうこともする。

「ショックなことがあって、宗教にはまる」

総力を結集した作戦が失敗し、ショックでやる気をなくしたタヌキたちは、宗教にはまって現実逃避をする。斬新すぎる展開だ。タヌキたちは、何かがうまくいった時の喜び方もはんぱないが、落ち込んだ時もとにかくすごいのだ。感情の起伏が激しい、これもアホの素晴らしいところだ。

タヌキたちの行動は時に愚かだが、けっして憎めない。精一杯その時を生きているからこそだ。

さて、僕の故郷・和歌山市では「港まつり」という花火大会がある。毎年たくさんの花火が打ち上がると同時に、和歌山の若者たちは、恋の花火も盛大に打ち上げることになっている。「ぽんぽこ」が公開されたのは僕が高校生の夏だった。僕は、友だち何人かと一緒に映画館に足を運び、夜は港まつりに繰り出した。その時のメンバーには、僕がちょっと気になっている女の子もいた。

タヌキに何か勇気をもらったのかもしれない。僕はまさに本能を抑えきれず、彼女に思いをぶちまけた。だが、僕の放った恋のロケット花火はあっさり迎撃され、和歌山の空に溶けて消えた。

かろうじて宗教にはまることはなかったが、しばらくの間エヴァンゲリオンにはまったことは報告しておこう。三次元の傷を二次元で癒す、これもまた人の世の真実だ。

そういえば、イタリアにこんな短いバルゼッレッタ(ジョーク)がある。

ピエリーノが言った。
「先生、何もしてないのにその人を罰するなんてことある?」
先生は答えた。
「あるわけないでしょ」
ピエリーノはほっとして言った。
「よかった。ところで先生、僕、宿題をやってないんだ」

何もせずに足踏みしてる人生はつまらない。タヌキみたいに全力で生き、体全体で喜びを表現したいものだ。

うまくいかなかったら、今度は全力で落ち込めばいいだけだ。まあ、宗教にはまるのは考え物だけどね。

執筆:有北雅彦
1978年、和歌山県生まれ。作家・翻訳家・俳優。大阪外国語大学でイタリア語を学びながらコメディーユニット・かのうとおっさんを結成。’13年「国際コメディー演劇フェスティバル」コント部門A最優秀賞。訳書に『13歳までにやっておくべき50の冒険』『モテる大人になるための50の秘密指令』(ともに太郎次郎社エディタス)。


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