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「三代目は、めがね」第2回 カエル少年はどこへ(横田陽子)

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前回、私が働いているシネマート心斎橋がオープンして12年経ったと書きましたが、12年は人間でいえば小学校6年生といったところですね。突然ですが、皆様『カエル少年失踪殺人事件』という映画をご存知でしょうか?

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それは、シネマート心斎橋がオープンして5年半というある日のことでした。私がひとりでチケットカウンターに立っている時、ふら~っと女性のお客様がひとり入って来られました。50~60代といったところでしょうか。ごく普通の取り立てて特徴の無い女性で、ロビーには他に人影もなく、私はどのお客様にもするように「いらっしゃいませ。チケットはこちらで販売しております」と声をかけました。秋の日差しが降り注ぐロビーを、その女性はこちらの呼び掛けには耳を貸さず、奥の方まで歩いていってしまいました。しばらくして、キョロキョロ何かを探している感じでその女性が私の方に歩いて近寄って来ました。そして、「ちょっと聞きたいんやけど、カエルの少年の映画は何時からですか?」と尋ねてくるではないですか。
「カエルの少年?」スグには意味がわかりませんでした。カエル?カエルの映画も上映してないし、少年?シネマートは自慢じゃないですが少年向けの映画はオープン以来、数本しか上映したことがありません。PGとかRとか付いている映画が多い気がします…。それはさておき、他の映画館にもまあまあよく映画見に行っている私は、大阪市内で上映している映画は大体把握しているつもりだったのですが、カエルの映画って上映していたかなあ…聞いたことないなあと思い、「それは洋画ですか?邦画?」とお客様に尋ねたところ、「韓国映画」と答えられました。そうです。シネマート心斎橋はオープン以来、たくさんの韓国映画を上映してきました。下手したら韓国映画が一本も上映されていない期間は年平均2週間くらいじゃないかしら?と思うくらい(体感ですが、ほぼ合ってると思います)切れ目なく上映しているのが特徴の映画館です。「カエルの韓国映画?聞いたことないですねえ」と言うと、その女性は自信満々な表情で「ついこの前、ここへ来た時、ロビーにポスターが貼ってあった」と。「いやぁ、貼ってないです。韓国に旅行された時に現地で見たのでは?」と言うと、「韓国に旅行なんかしてない。絶対にここで見た!カエルを探して山に入った少年たちが行方不明になる映画やねん」と断言されます。しばらく「絶対貼ってた」「貼ってないです」の話が続いたのですが、他のお客様が入って来られて、そちらに気を取られている間に、気付いたら、すうーっとその女性はいなくなっているではありませんか。
入れ違いにロビーに降りてきた当時支配人だったN村さんに「不思議な出来事がありました!」と報告したら「これは何かのお告げかもしれへん!」となりネットですぐに調べたところそれらしき映画を発見、紆余曲折を経て2012年春にシネマート心斎橋で公開された映画がイ・ギュマン監督『カエル少年失踪殺人事件』です。韓国では三大未解決事件と呼ばれる実際に起きた少年たちの失踪事件を基にして作られた映画です。
公開された後、シネマートであの女性を見たことはありません…。

執筆:横田陽子
学生時代に神戸の映画館でアルバイト。卒業後は映画と関係の無い仕事を転々とし、
2006年シネマート心斎橋にオープニングスタッフのアルバイトとして入社。
2013年12月より上映予定表の裏に現「ヨーコのこべや」連載。
2015年よりシネ・ヌーヴォ支配人とミニシアター入門編トークイベント「ヨーコ&ノリコのおしゃべりミニシアター」不定期開催。
2016年11月から支配人業務に従事。

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