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「仙人」と呼ばれた画家熊谷守一のユーモラスな一日描く 沖田監督新作『モリのいる場所』公開へ

『南極料理人』や『横道世之介』など、ユーモラスで心温まる作風で知られる沖田修一監督の新作『モリのいる場所』が、5月19日(土)より全国で公開される。

沖田監督写真(キネプレ) (1)

30年もの間ほとんど家の外に出ることなく、庭に生きる虫、草木、猫などをひたすら見つめ、描き続けた「モリ」こと実在の画家、熊谷守一(1880-1977)を描く。
モリを演じるのは『天国と地獄』『タンポポ』などで知られる名優・山﨑努さん。その妻・秀子を『あん』『海よりもまだ深く』などの樹木希林さんが演じている。
モリの実際のエピソードをもとに、この夫婦とそれを取り巻く人々の、「こっけいで慈しみあふれるある一日」が描かれている。

以前から守一の大ファンだった山﨑さんは、メイクや小道具にもこだわり抜いて「モリ」というキャラクターに生命を宿らせた。そんな山﨑さんと初共演となった樹木さんは、モリとの生活を愛する飄々とした妻の役どころを伸び伸びと演じている。

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(c)2017「モリのいる場所」製作委員会

もともと熊谷守一という画家を知らなかったという沖田監督。過去作『キツツキと雨』(2012)のロケ地が守一の出生地近くで、出演していた山﨑努さんから「もし時間あれば行ってみれば」と声をかけられたことがきっかけだった。色々調べていくうちに「山﨑さんが守一さんの役をやったらどんなだろう」と思いが膨らんでいったという。
脚本の初稿段階で、映画を一日のエピソードにすることは決定。「晩年の一日を描いた方が、(家に居続けた30年間という)長い時間を想像できる」という思いで判断した。「シンプルな映画にしたかった」と語る沖田監督。小さなキャンバスに小さな生き物を描いている守一の印象を大切にし、上映時間も100分未満の尺にこだわった。

岐阜出身の守一は、東京美術学校で黒田清輝らの指導を受けた。戦後は、明るい色彩と単純化されたかたちを特徴とする画風を確立。貧困に苦しみ、戦争をはさんで次々と家族の死に見舞われるなど、生活は困難の連続だったという。カネや名声に無頓着で、自分のために絵を描く彼は、長く蓄えられたあご髭の風貌もあいまって「仙人」とも呼ばれ有名に。没後40年を記念した回顧展が東京国立近代美術館で開かれたりするなど、今も多くのファンを持つ。

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(c)2017「モリのいる場所」製作委員会

守一の絵が暗い時期も長かったが、監督はそういった暗い半生を巡る映画にはしたくなかったとのこと。明るい絵を描いているだけの一日を描くことで、守一の人生が透けて見えるよう心がけた。
結婚52年目、昭和49年夏のある一日の中で紡がれるエピソードは、どれも愛おしくておかしい。食事のシーンでは、歯のないモリが食べ物をキャンバス鋏でつぶして食べているが、これは実際に守一のもとに通って撮影した写真家・藤森武が体験したことで「けっこう汁が飛んでいたそう」だ(この藤森をモデルにしたカメラマン役を加瀬亮が演じている)。他にも実際にあった出来事を監督なりに解釈し、大胆にアレンジを加えているシーンが多く、魅力的な人物像が作り上げられた。

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(c)2017「モリのいる場所」製作委員会

物語は、ほとんど家の中で繰り広げられ、いろんな訪問客とのかけあいややりとりが描かれる同作。
そんな家のなかでもとりわけ魅力を放っているのが庭だ。ロケハンの末、二軒の家の庭をつないで縦長の広い庭を確保し、造園と建て直しをしてこの庭は完成したという。その庭の中で、モリが日がな一日、虫や草花を愛でる様子を美しく撮影した。虫は思うように動いてくれないこともあり、何度も撮影したり、一瞬のチャンスを待ったり、そうしたスタッフの汗と努力によって様々なシーンが生まれた。

なお本作で流れる音楽は、『聲の形』『DEVILMAN crybaby』『リズと青い鳥』の牛尾憲輔さんが手がけた。電子音楽によるオーガニックな音色とリズムが、モリを取り巻く物語に彩りを添えている。

映画『モリのいる場所』は、5月19日(土)よりシネ・リーブル梅田などで上映開始。

映画『モリのいる場所』予告編

詳細情報
■上映日程
5月19日(土)~

■サイト
映画『モリのいる場所』公式サイト