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2018年04月25日(水)
「映画と短歌と街をゆく」 第1回 新宿『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(奈良絵里子)


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みなさんこんにちは。歌人の奈良絵里子です。歌人というのは、短歌という短い詩を日常的に作る人のことで、紀貫之とか石川啄木とか与謝野晶子とか、聞いたことありますかね。現代にも短歌を「趣味」として楽しむ人がいるんです。

短歌と俳句の違いがわからない、なんて話をよく聞きます。俳句は『ちびまる子ちゃん』の友蔵が詠むやつ。季語が必要で575。いっぽう短歌は57577と、ちょっと長くなったぶん、状況説明ができるようになります。

といっても、たった31音。

渾身の書評とか、複雑な事情を説明することはできないけど、例えば、散歩中に目についた風景をiPhoneで撮っておくくらいのことは書きとめることができます。

そんな話をしていて思い出したのが、新宿ブルク9で見た『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のこと。

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2009年6月の公開当時、私は渋谷のパン屋さんで新入社員として働いていました。シフト勤務なのでお休みが不定期で、近くのお店に同期がいてもなかなか遊べなかった。大学は関西だったので東京に、友だちもいなくて。最初の頃は、吉祥寺とか銀座をぶらぶらしてみたりもしたけど、一人遊びも退屈になってくると、よく映画館に行ってました。

渋東シネタワーで見た『南極料理人』は変な時間に行ったらお腹が空いた。渋谷ユーロスペースで見た『カケラ』は無気力な目をした満島ひかりがかわいくて、そのあと『海の底からこんにちは』も見に行ったな。

でも「エヴァ破」は一人じゃなくて、お店の先輩と一緒に見たのでした。

38歳独身男性アニメオタクの先輩と、粉袋に囲まれたバックヤードでエヴァの話で盛り上がってたら、休憩中の職人さんに「シフト合う日に二人で行って来たら~」とはやし立てられたのがきっかけで。

まあ職人さんにはちょっとからかわれてたんでしょうね。

その先輩はぼーっとしていて仕事はできなかったけど、売り上げとか社員の噂話以外の「ふつうの」おしゃべりができるので、一緒のシフトのときは嬉しくて口数が多くなるので冷やかされてたんだと思います。休日に誰かと映画に出かけるなんて学生のとき以来で、「じゃあほんとに行きましょうよ」って誘ったのは私のほうでした。

先輩は湯島、私は井の頭線に住んでて、新宿の劇場を選んだのは、その日の晩に店長の非公式な誕生日会(というややこしいものがあった)が新宿で開催されるからでした。用事の前に映画見るだけ、っていう言い訳が立つのも都合が良かったのかもしれません。

昼過ぎに駅で待ち合わせると、先輩はスーツを着てました。普段は制服だからちょうどいい私服がなかったのかもしれません。年の差があったし、本当に冷やかされるような色っぽい雰囲気はそれまで全然なかったんだけど、お互いにデートみたいにならないように妙に気を遣っているのがよくわかりました。新宿バルト9の宇宙ステーションみたいなラウンジで、チケットはめいめい買って、飲み物は私がごちそうしました(出しときますねって言ってから、お金をもらいそびれた)。

座席に座ると、あとは熱中。お互いに、エンディングロールが終わるまでじっとスクリーンを見つめるタイプだったので、周りが明るくなってからゆっくり立ち上がって部屋を出ました。

テレビシリーズと比べて登場人物の性格と行動が変わってるとか、結末とか色々感想はあったけど、直前のぎくしゃくした感じもあってすぐに言葉が出てこなくて、うつむいたままのろのろと下りのエスカレーターに乗りました。

ふいに前に乗ってた先輩が「見て」と言うので顔をあげたら、目の前一面が窓で、そこに夕暮れの新宿がありました。青っぽいグレーの空と、向こうの夕日を反射したビルと、高架の電車、広告。

直前まで見てた映画の(破壊されていく)「第3新東京市」みたい、なんていうのはベタすぎるかもしれないけど、先輩と顔を見合わせて「これはすごいですね」「この時間のこの空やばい」「新宿で見てよかったー」って何度も言い合いました。「エモい」なんてちょうどいい表現、そのときは無かったな。

【今回の一首】
夢を問えば愛と答えて降りていく 窓ガラスには新宿の街

執筆:奈良絵里子
1986年生まれ。大阪在住。中学校の国語の授業がきっかけで短歌を趣味にする。枡野浩一短歌塾四期生。
同人誌『めためたドロップス』ほか短歌とミニエッセイの寄稿など。コワーキングスペース往来にて月1の講座「もしも短歌がつくれたら」スタッフ。伊丹市立図書館ことば蔵にて「そうだ、歌会始行こう!」など、短歌初心者向けの小さな催しをたまに企画する。


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