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「未来の神戸映画プロジェクト」神戸芸術工科大学・月世界旅行社

今年17回目を迎える老舗映画イベント「神戸100年映画祭」に向けて、意気込む若者たちがいます。
まずは神戸芸術工科大学。映画監督の石井岳龍(旧名・石井聰亙)さんが教鞭をとっていることでも知られているこの大学で、映像制作を学ぶ学生たちです。
もう一つは、京都の「月世界旅行社」。京都造形芸術大の学生やOBで結成された自主映画製作・上映団体で、今までも関西の巡業上映や祇園天幕映画祭など、地域に密着した上映活動を行ってきました。
2チームとも、ほとんどが10代・20代の若者たち。彼らがこの度、神戸100年映画祭で「未来の神戸映画プロジェクト」を実行します。それぞれの地元・神戸と京都で短編映画を制作し、映画祭に訪れる観客たちに披露しようという試みです。

今回は神戸芸術工科大学の向田優さん、月世界旅行社の片岡大樹さん、岡本建志さんに話をうかがいました。地域にこだわり、若い力を発信しようとする彼らの思いを、ぜひご覧ください。


片岡大樹監督(写真左、月世界旅行社)、向田優監督(中央、神戸芸術工科大学)、
岡本建志プロデューサー(右、月世界旅行社)

‐‐‐今回、神戸100年映画祭で「未来の神戸映画プロジェクト」を実施することになったきっかけをお聞かせください。

岡本 月世界旅行社が2011年4月に神戸で上映会を催した時、神戸芸工大の作品も上映させてもらったことから、神戸芸工大と月世界旅行社のつきあいが始まりました。
その時はじめての神戸上映だったので、神戸の主要な映画館や映画関係者の方にあいさつさせていただいたんです。宣伝協力をお願いしました。その時に、神戸100年映画祭事務局の方にも知り合いました。
神戸100年映画祭はいま、年々会員数が減っていて経済的にも厳しい状況なんです。それ以前に、映画を観る人自体も減っていますよね。だから映画祭の会員を増やしたい、いまは中高年の方が多いけど若い人にも呼びかけたい、ということで、事務局の方がぼくらのことを思い出した、という経緯です。
声をかけていただいたのは、2011年の10月ですね。昨年の映画祭が間近に迫っていたので、2012年に実行することになりました。

‐‐‐そして、神戸と京都それぞれで映画を作るという企画を考えていったわけですね。

岡本 当初は、今まで月世界旅行社が手がけてきたような形式を考えていました。若い人たちの自主映画をピックアップして上映する、というスタイルですね。でも、神戸芸工大の先生方やアドバイザーの田中まこさん(神戸フィルムオフィス代表)と話しをしていく中で、「ただ映画を上映するだけでなく、何かもっと踏み込んだ形で発信できないか」ということになりました。そこで、期間は短いけど、一緒に映画を作ろうじゃないかと。


神戸と京都を舞台にした短編映画を制作する

‐‐‐神戸100年映画祭の一コーナーとして、神戸・京都で作った短編映画を上映するという話が決まった、と。

岡本 もちろんそれだけでなく、それぞれの大学・団体が今まで作った作品の一部も上映するつもりです。神戸芸工大からはそれぞれ43分・20分・23分の作品3本、月世界旅行社からは50分の作品2本を予定しています。

‐‐‐新たに制作される作品の監督は、どなたですか。

岡本 神戸芸工大さんからは向田(優)さん、月世界旅行社からは片岡(大樹)です。

‐‐‐2作品の共通するテーマが「異色のヒーロー」だと聞きました。

片岡 はい、2人とも「ヒーロー」という要素を持った映画を作っています。それぞれ20分程度の短編。10月中旬~下旬に撮影を予定しています。

‐‐‐それぞれの作品について教えてください。

向田 ぼくの作品の舞台は、現実世界ではないんです。映画のために作られた、虚構の世界を表現したいなと思っています。

片岡 ぼくは、向田さんと逆ですね。リアルな日常、現実に即した物語を描いていきたいなと。2作品のその辺りの対比や違いを楽しんでいただければと思います。


「京都を舞台にリアルな日常を描きたい」と話す片岡大樹監督

‐‐‐それぞれ神戸と京都でロケを行うとうかがいましたが、この2都市の違いなどは感じましたか?

片岡 神戸は、山から海、都会から郊外まであるのがうらやましいですよね。京都で特徴的なものと言えば、どうしても寺社仏閣になってしまいます(笑)。あと、京都は古くから撮影所があったので、だいたいの場所は撮影されたことがあるんですね。映画だけでなく、サスペンスドラマとかの舞台によく使われますから(笑)。

岡本 その点、神戸は普通の映画を撮ろうと思った時に、いろんなシーンを撮りきれるのが良さかなと思います。あと神戸での映画撮影は、神戸フィルムオフィスさんが精力的に支援されています。そういったバックアップがあるのも素晴らしいですね。

‐‐‐作る映画に関して、神戸100年映画祭の方から提案などはありましたか?

片岡 実はありがたいことに、一任していただいています。何も言われていない分、いい作品を作らなきゃなと思っています。ちょっとプレッシャーですね(笑)。

‐‐‐映画の制作規模はどのぐらいですか?

片岡 月世界旅行社は、15人ぐらいでやろうと思ってます。最小規模ですね。普段は30人ぐらい動員していることもあるので。

向田 こちらもあまり変わらず、25人ぐらいです。うちの学校は学生に、映画制作に関する全ての役割を担当させて勉強してもらう、という方針なんですね。だから、学生にとってもすごくいい機会だと思っています。普段のカリキュラムでは学べないことを学べるわけですから。映像表現学科だけでなく、まんが表現学科やCG学科なども参加する予定です。


「神戸という土地で、虚構の世界を表現したい」と話す向田優監督

‐‐‐月世界旅行社さんは、こういう形で映画制作や上映の依頼をもらうことが増えてきたと聞いています。少し気が早い話ですが、今後の活動をどのように展開していきたいか、考えていることはありますか?

岡本 まず、「関西を自分たちの上映範囲にしたい」という思いがあります 2011年の3・4月に関西2府4県で「巡業上映」というのをやりましたが、そこで出会った和歌山県橋本市や神戸の人たちとのつながりが今も継続していて、基盤がちょっとずつ大きくなっていることを実感しています。
 あとは、いろんな場所で映画を作って上映するということで、認知してもらいたいなあ、と。認知してもらうことで、また上映の機会が広がっていくんじゃないかと思っています。以前は巡業上映のように、自分たちで機会を作ってきたんですが、いまは依頼を受けることが多くなってますね。だから受けた依頼を、自分たちなりの個性を加えながらこなしていきたいです。継続していく時期かなと。

‐‐‐今後どう広がるか、楽しみでもありますね。

岡本 でもほんと、未知数ですね。神戸100年映画祭の今回の企画に関しても、すごく面白いと思っています。映画祭の方をはじめ、自分たちの映画を支援してくれる人たちと直結した関係を築いてこれているので、いまは第二のフィールドを作っている段階ですね。

‐‐‐観客とどう結びついていくか、という問題もありますね 特に今回の映画祭は、自主映画になじみのない人が多く来場されると思うので。

岡本 いろんな人にどんどん知られた方がいいと思っています。実行委員会の主要な人はもちろん月世界旅行社の作品を知ってますけど、それ以外の人は知らないわけです。その接点をどうやって作っていくか、というのをずっと考えています。

向田 今回の映画祭には、もちろん映画がむちゃくちゃ好きな人がいっぱい来ると思います。でも、そこまで映画好きでなくてもいいから、「神戸でやっているイベント」というのを一つの引っかかりとして、もっと多くの人が興味を持って見に来くるようになればいいなと考えています。自主映画や上映会を知るきっかけというか。
それが神戸の活性化、映画祭の活性化にもつながるし、人と人とのつながりも生まれていくと思うんですよね。お互いがいい出会いになる、そんな映画上映会にしたいなと思っています。


映画の制作プランを入念に打ち合わせる3人

 

神戸芸術工科大学の向田さん、月世界旅行社の片岡さん、岡本さん、ありがとうございました。
彼らが現在進行中の「未来の神戸映画プロジェクト」は、現在カンパを募集しています。
この記事を読んで彼らの活動に興味をもたれた方は、ぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
キネプレの記事でも詳細を記していますので、ご参考に。

(2012年9月 取材・執筆:森田和幸)

■サイト
未来の神戸映画プロジェクト
http://kobe-film.petit.cc/
神戸100年映画祭
http://kff100.com/
神戸100年映画祭に新風を 神戸・京都の学生がタッグ 【キネプレ記事】
http://www.cinepre.biz/?p=2094