ただの不倫劇ではなく、女性たちの戦いを描いた―話題のドラマ『昼顔』が劇場版へ

上戸彩さんらの演技で話題をさらい、流行語にもノミネートされたドラマ『昼顔』が6月10日（土）より新作劇場版を公開へ。西谷弘監督に劇場版ならではの見どころと込められたメッセージを聞いた。

2014年に放送された連続ドラマ『昼顔～平日午後3時の恋人たち～』。上戸彩、斎藤工など人気俳優陣が主演を飾り、人妻の不倫劇という背徳的なテーマに挑んだ演技が話題となった。その話題性は放送を重ねるごとに増し、番組タイトルがその年の流行語にノミネートされたほど。
今回公開される劇場版はドラマから三年後の世界を描いた作品。不倫劇の末、家族と職を失った主人公・紗和（上戸彩）は海辺の町へ移り住んでいた。ある日かつての不倫相手である北野（斎藤工）が偶然にもその町へ公演に訪れることを知った紗和。“もう二度と会わない”と法的に合意書を交わしたはずだが、紗和はもう一度北野に会いたいという想いを抑えきれず公演会場へ。再会した二人は再び逢瀬を重ねる関係になってしまう−−−というストーリーだ。

劇場版のメガホンを取った西谷弘監督は、ドラマ版でも演出を担当。他にも数々の映像作品の演出経験を持ち、劇場映画としては『容疑者Xの献身』『任侠ヘルパー』『真夏の方程式』などが監督作品として挙げられる。
西谷監督に本作が映画化されるに至った経緯を聞くと「ドラマの放送後、嬉しいことに大変な反響が。そこから特別版や劇場版などの新作を作ろうとお話が挙がった」という。
色々と構想があった中で、映画というメディアを選んだ理由はあったのだろうか。
「映画というのは劇場に赴くことが必要な、自ら選んで作品を観たい人向けの媒体と言えるでしょう。ドラマから映画に変わることによって、ドラマのファンの方は勿論、劇場で興味を持って初めて『昼顔』に触れる方もいらっしゃる。そういった相乗効果でさらに作品が広まると嬉しいと思っています」と語った。

劇場作品として制作するにあたり、意識した点について尋ねると、「ドラマを未見でも、映画のみで独立したものとして楽しめるように心がけて作っています。映画は物語をじっくり味わう空間の中にある。本作をドラマと見比べて見ていただくとわかりますが、主人公・紗和のモノローグが主体となっていたドラマとは異なり、本作では物語が進むにつれて“紗和の独白”的な要素が薄らいで観客が作品の中に入り込んでいけるように描いています。紗和の言葉から心情を知るのではなく、その表情から探る。よりヒロインに感情移入してもらいたい。映画ならではの味わいを堪能して欲しい」
西谷監督ならではの、劇場版演出へのこだわりがかいま見える。

本作の脚本は、ドラマから引き続いて井上由美子さんが担当。彼女の脚本で話題となったのが登場人物たち、特に女性キャラクターの鋭いセリフ回しだ。例えばドラマの中で紗和が語る「私を疑いもしない夫に怒りが湧きました」という夫婦間の信頼と疑念の間で揺らぐ心を表すセリフや、紗和と同じく不倫に溺れる主婦・利佳子のセリフ「私たちいい友達になれそうね。あなたも私も嘘つきだから」など、詩的だが核心をつくセリフはこの作品をより強く印象付ける要素になっている。
本作での印象的なセリフについて西谷監督が印象的だったのは「紗和が働く飲食店の同僚である若い女の子が放つ『不倫って恋じゃないじゃん』というセリフ」だという。「若い女性から見た不倫というものをよく表現したセリフです。さらに、その言葉を放った後の紗和や別の女性キャラクターが見せる反応も様々。同じ女性であっても、年代によって恋、不倫というものへの考え方が異なることが表れていると思います」

本作では新たな登場人物も加わり、特に女性キャラクターが重要な役割を担う。紗和と北野の不倫という関係を通じて、登場する女性全員が「愛」というものについて悩み、考える姿は、初めて同作を鑑賞する女性の観客たちも心を重ねることができるだろう。
「この作品は女性たちの戦いをテーマにしていました。井上さんの脚本には女性たちの本音がその詩的な表現から感じ取れる。さらに上戸さんら出演者がドラマからさらに円熟した演技で伝えることにより、映画でもセリフ一つ一つが心に刻まれていくと思います」そう語る監督の言葉通り、ただの不倫劇ではなく、「愛」について葛藤する女性たちの複雑な心情が見事に表現された作品だからこそ、多くの人に支持され映画化へ至ったことがうかがえた。

映画『昼顔』は6月10日（土）より全国東宝系で公開。

映画『昼顔』予告編