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「相当濃厚で癖になる味がする作品」30年越しの想いが実現、吉田大八監督最新作『美しい星』公開へ

『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』などで知られる吉田大八監督の最新作『美しい星』が5月26日(金)より公開される。

吉田監督写真2
吉田大八監督

『美しい星』は、三島由紀夫の同名ロングセラー小説を初めて映画化した作品。ごく普通の家族だった大杉家の人々が、ある日、父の重一郎(リリー・フランキーさん)が火星人、息子の一雄(亀梨和也さん)が水星人、娘の暁子(橋本愛さん)が金星人、母の伊余子(中嶋朋子さん)が地球人として覚醒する。彼らは共通して「美しい星・地球を救う」使命に目覚め、それぞれに奮闘するが、次第に世間を巻き込む大騒動を巻き起こしていく。彼らは一体なぜ目覚めたのか、彼らに地球を救うことなどできるのか……というSF作品。

原作は50年以上も前に出版。吉田監督は「今から30年前、大学生の頃に原作を読んで、これを映画で観たいなと強く思いました」と映画化への想いを長きに渡って抱いていたことを明かす。「自分で映画を撮るようになってからも、何かやりたいものはないかと聞かれれば、折に触れて『これを映画にしたい』と持ち掛けていましたね」。しかし折々の様々な理由で、その願いは叶わぬままだったという。「今回も、きっとダメだろうなと思いながら、軽い気持ちでいつものように『美しい星』をやりたいって言ったら、通っちゃったんです」と笑顔を浮かべる監督。「その時は、ついにやれるんだという気持ちより、『えっ、ちょっと待って』と焦る気持ちの方が強かったかも。30年もやりたいって言ってきたのにね(笑)」

主人公の大杉家は「美しい星・地球を救うこと」を使命としているため、映画は地球温暖化などの環境問題にも触れているが、吉田監督は「環境問題そのものに対してなにか問題提起をしたいわけではありません」と話す。「原作は、それまで地球人だった人が宇宙人として覚醒して地球の危機に立ち向かう、そして宇宙人の視点から人類や地球の未来について議論をはじめるというちょっと変わった小説です。原作の背景となったのは米ソの冷戦時代で、核軍拡の恐怖を扱っているのですが、今は対立の構図がより複雑になり、危機の質も変わっている。それをどう現代に置き換えるかと試行錯誤を重ね、最終的に今の形に落ち着いたんです。原作が持っていた同時代感を、映画でも大事にするべきだと思いました」

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©2017「美しい星」製作委員会

ポスタービジュアルにも使用されているインパクトの強いリリー・フランキーさんの「火星人のポーズ」についてのエピソードも。「脚本には『火星人のポーズ』と書いただけ」。撮影前に振付家と打ち合わせをしてだいたいの動きだけは決めたが、あとは出たとこ勝負でリリーさん自身にお任せしたという。微調整は加えたそうだが、基本的にはリリーさんのお芝居のテンションの延長で生まれたポーズだとのこと。「リリーさんは全テイク、一回一回全力でポーズを取ってくれて、次の日、体が痛くて動けなくなったりしてました」。リリーさんとは他にもこんなエピソードが。ちょうど撮影開始から1週間ほどが経過し、田んぼの中に車がオブジェのように置かれたシーンを撮っていた時のこと。ふと目が合い、「『いま、SF映画撮ってますね』と同時に思ったことを口にして『あっ、心が通じ合ったな』と感じました(笑)」

原作で母親は木星人として覚醒することになっているが、映画では唯一覚醒しない地球人として描かれる。「観客と覚醒した宇宙人との間に橋渡しになる人がいてほしかった」と監督。さらに、「地球人の彼女が、宇宙人として好き勝手やり始めた家族にブーブー文句を言いながらも、最終的には4人をまとめ上げて一つの目標に向かわせる。扇の要みたいな存在でいてもらおうと思いました」と話した。

クライマックスの、リリーさん、亀梨さん、佐々木蔵之介さんがテレビ局で大討論するシーンは、撮影時に大変な苦労があったという。「やっぱりあれがこの映画のハイライトの一つ。討論の内容を構築すること自体も大変でしたが、それを映画としての魅力を失わないように撮るのも大変でした」と明かす。一人一人のセリフをちゃんと目にも耳にも響かせるように演出することは、監督にとって大きなチャレンジだったとのこと。「この討論が成立しなければ、『美しい星』を映画化したとは言えないと思っていましたが、リリーさん、亀梨くん、蔵之介さんが、音楽のように、それぞれの言葉をそれぞれの音色で見事に奏でてくれた。原作を預かった責任は果たせたんじゃないかなと思います」

「三島由紀夫の原作ということで、一瞬身構えてしまう方もいるかも知れません」と監督。「でも、これまで観たこと感じたことのない衝撃や衝動を持ち帰っていただける映画になったと思います。特に20代から30代にかけての方に観てもらえたら。決して咀嚼しやすい映画ではないと思いますが、相当濃厚で癖になる味がすると思いますので、まず一口味わっていただければ」とPRし、締めくくった。

映画『美しい星』は、5月26日(金)より大阪・TOHOシネマズ梅田、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都ほかにて公開。

映画『美しい星』予告編

詳細情報
■上映日程
5月26日(金)~

■サイト
映画『美しい星』公式サイト