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「美術館映画」の公開、なぜ続く? 反映される美術界の現在とは

美術館をテーマにした映画が、日本で2014年初頭より立て続けに3作品公開されている。
美術をテーマにした映画はこれまでにもあったが、なぜ今、「美術館」にスポットライトが当たるのか。その理由に迫った。

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■美術館改修・再開の内情に迫る
「美術館映画ブーム」の口火を切ったのが、『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014年、90分)だ。レンブラントの「夜警」、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」で知られるオランダのアムステルダム国立美術館の改修事業の内幕に迫ったドキュメンタリー。
2010年に公開された『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』の続編に当たり、前作が2004年に始まった大規模改築工事がトラブルで頓挫し、閉館する様子を描いていたのに対し、今作では美術館側や市民らが本音をぶつけあいながら、2013年にグランドオープンを果たした顛末を紹介している。

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『みんなのアムステルダム国立美術館へ』©2014 Column Film BV

■有名美術館の精力的な取り組みなどを描く
続くのは、『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014年、181分)だ。監督は、ドキュメンタリー界の巨匠、フレデリック・ワイズマン。『パリ・オペラ座のすべて』など、芸術界をテーマにした作品も多く手がける彼が、ロンドンのトラファルガー広場にあるナショナル・ギャラリーを3ヶ月間取材。
展示物だけでなく、絵画の修復作業の様子、専門家らのギャラリートークや斬新なアイディアのワークショップ、バレエ団とのコラボなど、来館者を楽しませるための試みなどを記録している。

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『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』©2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

■巨匠たちが作り出した美の饗宴
最後は、2月末に日本公開が控えている『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』(2013年、66分)だ。カトリックの総本山ローマに位置し、歴代ローマ教皇の収集品を収蔵展示するバチカン美術館を、世界で始めて4K3Dカメラで捉えた作品。
ラファエロ、ミケランジェロ、ダ・ビンチなどのルネサンス期の巨匠やゴッホ、シャガール、ダリなど近現代の作品などを多彩に展示している様子を、美しい映像で表現している。

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『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』(C)direzione dei muse i – governatorato s.c.v

■文化の希薄が、美術館映画を生んだのでは
内容はそれぞれ違うが、美術館を扱った映画がこうして日本で連続公開されることについて、映画館側、美術分野の人、それぞれに話を聞いた。
まず3作品をすべて上映する大阪の映画館シネ・リーブル梅田で映画紹介文などを書いている「MOVIE多田」さんに、映画の作り手と観客についてうかがった。
「人間の文化的な側面が希薄になっている現在だからこそ、映画という分野の作り手が、美術館という文化的な営みを題材にしているのではないか」と語る多田さん。
また受け取り手である一般の人にとっても、「文化的なものが希薄になる危機感は感じなくても、そうした文化的な営みの裏側でどういったことが行われているのか観てみたい、という欲求を持つのは自然なこと」と話す。
「3作品が重なったのは偶然なのかもしれないが、意識的であれ無意識であれ、それぞれの欲求がいまこういう形で反映されているのでは」と見解を述べる。

■再出発という観点から、美術館の運営をのぞき見る
また、国内外の美術館事情に詳しい山下里加さん(アートジャーナリスト・京都造形芸術大学アートプロデュース学科准教授)によると、3作品それぞれに、「今の時代だからこそ作られた理由が見られる」という。
まず『みんなのアムステルダム国立美術館へ』は美術館の再建を描いているが、日本国内でも経営難などから再出発を余儀なくされている美術館が多い。「そんな中で、海外の美術館が市民を巻き込みながら再生して行く姿は、日本の美術館に携わる人からとっても関心が深いはず」だという。「日本でも、すでにそうした改革の手を打っているところは、そろそろその成果が出始めている。そんな時代性が、この映画にはあると思う」と話す。

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再開への取り組みや市民との対話も描く『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
©2014 Column Film BV

■これからの美術館に必要な「ブランド性」
それは、美術館にブランド性が求められる時代になった、ということでもある。『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』では、来館者に向けた様々な企画が映されているが、ルーブル美術館なども単なる「美術を展示する箱」ではなく、自分たちの美術館の価値を高め、来館者に楽しんでもらうための仕掛けを盛んに行っている。
「日本では美術は好きな人だけが楽しむ、という傾向が強いが、アメリカやヨーロッパでは、みんなに届けるべきという方針がある。今まで美術に触れる機会がなかった人にどう届けるかを試行錯誤している」と話す山下さん。
その方法のひとつとして考えられたのが、「地域住民の文化拠点」という新たな側面だ。美術を媒介に、地域の人たちが集い、コミュニケーションをとったり意見を交換したりして交流する場所としての個性を打ち出す美術館が増えているという。

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『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』では、来館者にどう美術館を楽しんでもらう取り組みを紹介
©2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

■収蔵作品の見せ方も追究する
それは、収蔵作品の魅力を精力的に打ち出すこととも無縁ではない。『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』では同館の作品を美しい映像で魅せるが、他館から借りてくるのでなくそうした自館の作品の見せ方も重要だ。
「特に日本では、美術館が作品を収集することに関しての予算が多くない現状があります。必然的に、『今ある作品をどう見せていくか』に重点が置かれ、それぞれの地域の作家を紹介することで地域の美術館としての存在感を強く打ち出していくことが求められています」。

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“ここにしかない作品”を打ち出す『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』
(C)direzione dei muse i – governatorato s.c.v

■裏方の取り組みは、じつはドラマティックだ
また3作品について共通して言えるのは、「こうした美術館の取り組みは、どれも物語的でドラマティックだ」ということだ。「美術館そのものが、物語が起こる場所になろうとしています」と山下さん。海外ではだんだん当たり前になってきたこうした動きが、日本でも今起こってきた。
「これまで日本では、作品を作る人を育てていた。でもようやく、コレクターや美術館を運営する人、学芸員といった、今まで『裏方』と呼ばれていた人も注目されるようになった」と山下さんは話す。

描く内容は異なれど、美術館にスポットライトを当てた3作品。
美術館を取り巻く環境が変化して行くこの時代に、それぞれの取り組みをぜひ映画館の大スクリーンで堪能したい。

『みんなのアムステルダム国立美術館へ』は、大阪のシネ・リーブル梅田で現在上映中。2月20日(金)まで。神戸アートビレッジセンターで2月21日(土)から、京都シネマで4月から上映開始。
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』は、シネ・リーブル梅田で上映中。シネ・リーブル神戸で2月20日(金)まで上映。京都シネマでは2月14日(土)より公開予定。
『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』は、3月7日(土)よりシネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都で、3月14日(土)からシネ・リーブル神戸で公開予定。

※取材協力
MOVIE多田さん(シネ・リーブル梅田の映画紹介担当) 
山下里加さん(アートジャーナリスト・京都造形芸術大学アートプロデュース学科准教授)
詳細情報
■上映日程
・『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
 シネ・リーブル梅田 ~2月20日(金)
 神戸アートビレッジセンター 2月21日(土)~
 京都シネマ 4月~

・『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
 シネ・リーブル梅田 上映中
 シネ・リーブル神戸 ~2月20日(金)
 京都シネマ 2月14日(土)~

・『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』
 シネ・リーブル梅田 3月7日(土)~
 シネマート心斎橋 3月7日(土)~
 T・ジョイ京都 3月7日(土)~
 シネ・リーブル神戸 3月14日(土)~

■映画館
シネ・リーブル梅田
大阪市北区大淀中1-1-88梅田スカイビルタワーイースト3F・4F、TEL 06-6440-5930)

シネマート心斎橋
大阪市中央区西心斎橋1-6-14ビッグステップビル4F、TEL 06-6282-0815

T・ジョイ京都
京都市南区西九条鳥居口町1番地イオンモールKYOTO Sakura館5階、TEL 075-692-2260

京都シネマ
京都市下京区烏丸通四条下ル水銀屋町620番地COCON烏丸3F、TEL 075-353-4723

神戸アートビレッジセンター
神戸市兵庫区新開地5-3-14、TEL 078-512-5500

シネ・リーブル神戸
神戸市中央区浪花町59神戸朝日ビルディングB1F、TEL 078-334-2126

■サイト
『みんなのアムステルダム国立美術館へ』公式サイト
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』公式サイト
『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』公式サイト

シネ・リーブル梅田
シネマート心斎橋
T・ジョイ京都
京都シネマ
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シネ・リーブル神戸