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『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』海南友子監督

絵本作家いわさきちひろさん。
そのイラストや絵本は、誰もが一度は見たことがあるかもしれません。
いわさきちひろさんは1974年に亡くなられました。
その人生が実はなかなかに壮絶で、そしていま生きる女性にもヒントや活力をくれるような生き様だったと。
ドキュメンタリー監督の海南友子さんは話してくれました。

今回、全国で公開されるドキュメンタリー映画『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』
この映画について、そしていわさきちひろという絵本作家の生き方について。
海南さんに、話を聞いてきました。

‐‐‐今回の映画を作られた経緯を教えてください。

海南 山田洋次さんが、いわさきちひろの美術館の館長をされていて、山田さんから「いわさきちひろの映画を作りませんか」というお誘いを受けました。最初は子どもの頃に見た絵本のイメージしかなかったのですが、取材を始め3年かけて約50人のインタビューを行っていく中で、働く女性として大先輩だなと考えるようになりました。

‐‐‐-亡くなられて38年経つ方ですが、そのあたりの難しさはありましたか? 周りの人の証言で掘り下げていく作業は、他のドキュメンタリーと違うところも多いのではと感じたんですが。

海南 そうですね。たとえばドキュメンタリーでは1人の主人公をずっと追いかけていくものが多いです。今まで撮った作品もそういう方向なんですが、今回は違いました。昔に亡くなった人の人生を、証言から立体化していく、一人の人間として立ち上げていく作業が難しかったし、とても勉強になりましたね。

‐‐‐周りの人それぞれによって、とらえ方が違いますよね。

海南 本当にそうですね。それぞれの人から見た「いわさきちひろ」は全部違いました。50人の目から見た彼女を追体験しましたし、それこそ親族も知らなかった彼女の姿も知ることができたので、貴重な経験でした。
私は本人とはもちろんお会いしたことがないわけです。そこでいろいろな方の証言から「いわさきちひろ」の姿を浮かび上がらせる努力をしたのですが、ある人が見ている彼女の姿って一側面でしかなくて、人によって全部違うんですよね。それをつなげる作業は大変なものでした。

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‐‐‐他に作品づくりで気をつけたことはありますか。

海南 そもそも「いま、この映画を作る意味って何だろう、見る意味って何だろう」という意識はすごくありました。まず見てほしいな、届けたいなと思っているのは、女性ですね。女性は人生の様々なステージで悩むことが多いわけです。仕事とか結婚とか子供とか。迷ったときに、「いわさきちひろみたいな生き方をした人もいるんだ」と参考になったらうれしいですね。

‐‐‐いわさきちひろが生きた当時の時代の空気は今とは違うところも多いですが、そのあたり同じ女性としてどうですか?

海南 彼女の生き方って、少し早かったんだと思うんです。結婚に関しても、今では当たり前のことも当時は例外的だったり。でも彼女は、日本が敗戦した直後から、自立した生き方をしていくわけです。だから働く女性の大先輩でありパイオニアだと思っています。
それと、優しくて強い、という印象を非常に強く感じました。証言をいただいた人たちの中で、「鉄を真綿でくるんだような人だ」とおっしゃっていた人がいて、すごく印象的でした。
そういった、「知られざる強さ」というものは作品を通して描きたかったことの一つです。いわさきちひろの作品のイメージって、優しいふわっとした雰囲気でしょう。でもその奥にどういう痛みや苦しみがあったのか。いろんな辛い思いをたくさんしたからこそ、優しい世界を描きたいという気持ちに彼女はたどりついたんじゃないかと。それは時代を超えて伝わるメッセージだと思っています。

‐‐‐では最後に、見ていただきたい方にメッセージをお願いします。

海南 私自身、人生の中で様々なことを選んで生きていますし、同じように「いま」を悩みながら生きている女性たちに見てもらえる作品にしたいなと思って作りました。「昔に亡くなった作家のお話を見にきて」ではなく、「今日を迷っているあなたに届けたい」と考えています。
それに、いわさきちひろの人生を一度知って、そのあとで彼女の絵に戻ってくると、それまでより深い世界を感じることができたんです。そういう発見を観客の方にもしてもらいたいと思っています。

 

海南友子監督、ありがとうございました。
『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』は7月14日から全国で順次公開。関西でもテアトル梅田、シネ・リーブル神戸で上映がはじまりました。
監督が「今日を迷っている女性に届けたい」、そんないわさきちひろの人生を、追体験してみてください。

■サイト
いわさきちひろ~27歳の旅立ち~ 公式サイト
http://chihiro-eiga.jp/
海南友子監督 公式サイト 
http://kanatomoko.jp/

(2012年6月 取材・執筆:森田和幸)