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『テンロクの恋人』渡辺シン監督

『テンロクの恋人』という自主短編映画があります。
渡辺シンという映像作家が、大阪の天神橋筋六丁目を舞台に撮った、“下町人情ドタバタコメディー”。
2008年から企画を開始。第1話から第4話にかけて、主人公「テンコ」とその周りの人がテンロクで繰り広げる物語を描いています。2011年に完成し、長野県の「商店街映画祭」でグランプリを受賞。
最近は、滋賀県で撮影した自主映画『ヤング通りの住人たち』とのコラボレーション上映イベント「映画市場(シネ・マルシェ)」を企画するほか、その他の大阪の作品にも参加。さらには神戸を拠点に映画制作を続ける石井岳龍監督のトークイベントを手がけたり。
まさに、“地元に密着した”映画の活動を精力的に続けています。
今回はその渡辺監督に、『テンロクの恋人』を撮り終えてからのいまの活動について、話をうかがいました。

‐‐‐まず、最近の活動について教えてください。

渡辺 吉川信幸という人が監督した映画の撮影で、3月に岩手の陸前高田市に行ってきました。僕はカメラマンで、実は画面に映ってるんですけど(笑)。「東北に自主映画を撮影しに行くクルー」のお話ですね。それが京都みなみ会館や大阪のシネ・ヌーヴォさんで上映されます(※京都みなみ会館は終了)。
タイトルは『いつかのピクニック』と言って、東北で自主映画を作っていたチームが東日本大震災にあって、シーンを撮りきれずに帰ってくる。そのチームが映画を完成させるためにもう一度陸前高田市に向かうというストーリーです。

‐‐‐渡辺さんはどういう役柄なんですか?

渡辺 その自主映画を撮影する監督兼カメラマン、というところです。そして実際僕がカメラをまわしてるんですが、「チーム内の監督」という役柄で、ちょこちょこ僕も映るという(笑)。

‐‐‐ややこしいですね(笑)。

渡辺 そうです、でも面白い試みだなあと思いましたね。ロードムービーのような撮り方をして、その場その場で脚本や演出を臨機応変に考えていくやり方も、体験して非常に勉強になりました。

‐‐‐震災が大きなテーマなんですね。

渡辺 はい、やっばりいま、どうしても避けては通れないテーマなのかなと思いますね。

‐‐‐特に『いつかのピクニック』は震災を真正面から扱っていますからね。

渡辺 『いつかのピクニック』の吉川さんは、『Hello Horizon』という自主映画で評価を得た監督なんです。そして今回連絡あって「手伝ってほしい」と。何をしたらいい、と聞いたら、「カメラまわしながら出てほしい」と(笑)。
でも東北というテーマだと聞いて、「ちょっと待ってほしい」と言いました。「震災は自分の中でもすごく慎重になるテーマだから、話を聞いて共感できるか判断させてほしい」と。中途半端に関わるぐらいなら、やらない方がマシだと思っていたんで。でも企画や脚本を聞いたら、吉川さんらしい人情味あふれる話だったので、「これならぜひ」ということで参加を決めました。

‐‐‐もう一つ参加されているという『あした天使になあれ』はどういった作品ですか?

渡辺 これはまだ制作中なんですが、助監督として関わっています。看護師の女の子が、仕事しながら道頓堀のミュージカル集団に入団して奮闘する姿を描いています。すごく大阪の地元に密着している作品ですね。

‐‐‐両方、地方色が強い作品なんですね。

渡辺 そうですね。今はそういった、「地域」というところに着目した作品に、積極的に参加していますね。もともとの『テンロクの恋人』からして、商店街の人たちから生まれた地元の映画ですから。

‐‐‐あと、8月に岩手の釜石でイベントをされると聞きました。

渡辺 はい、以前「映画市場(シネ・マルシェ)」で合同上映した『ヤング通りの住人たち』の石田摩耶子監督と、岩手県釜石市で「復興 釜石映画祭」を行うことになりました。8月14日に釜石市の「ホテルサンルート釜石」で実施します。『テンロクの恋人』と『ヤング通り~』の上映、あとは落語やライブなどもあります。

‐‐‐いまのところ、大阪と被災地の東北ですね。

渡辺 そうですね。映画の全体の動きがこれから、東京ではなく、地方同士のコミュニティが結びついていくような感じになっていくのかなあと思いますね。それは、グランプリをいただいた長野県松本市の「商店街映画祭」に行った時も感じました。
他にも、今年最初に石井岳龍監督が神戸を中心に映画を撮る、という動きもあったし(インタビューはこちら)、いろんな地域で同時にそういう動きが生みだされている感覚がありますね。

‐‐‐ひるがえって関西でもそういう動きが必要だ、という声が起こっている感じはあります。

渡辺 そうですね、今まで関西はずっと、「東京に追いつけ・追いこせ」のような意識がどっかにあったんだろうなあと思います。その意識が少しずつ変わっていったらな、と。松本の「商店街映画祭」を例に出しますが、東京への対抗意識はないんですよ。自分たちの地域に根付いた活動をしているという自負もあるから。関西が一番、東京を意識している気がしますね。もっと地元に目を向けてもいいのにな、と思います。

‐‐‐地元に密着して、映画を上映して巡っている団体もありますね。京都の団体「月世界旅行社」さんや、岡山の農家を描いた映画『ひかりのおと』なども。

渡辺 ああいう動きは、すごくいいですね。そんな活動がいろんなところで起こったらいいなと思います。いまは自主映画であってもミニシアターを借りて上映することもできますし、映画を自分たちで持って見せに行くというような動きが関西でもどんどん立ち上ってほしいですね。たぶんいま、そういう流れが、できはじめているのかなと思います。

 

渡辺監督、ありがとうございました。
現在渡辺さんが参加している『いつかのピクニック』『あした天使になあれ』「復興 釜石映画祭」。そして渡辺さんが注目している、いろんな地域の動き。
キネプレでも、ぜひ追いかけていきたいと思います。

(2012年6月 取材・執筆:森田和幸)